陰キャの渡瀬くんは私だけに甘く咬みつく
「……でも、だったらさ」

「ん?」

 陽呂くんの手の力が強まって、ギュッと握られる。


「尚更何ですぐに断らなかったわけ?」

「……え?」

 少し怒ったような目があたしをとらえるのと、手をそのまま引かれたのは同時だった。


「ぅわっ!?」

 体勢を崩したあたしはそのまま背中からベッドにぶつかるように落ちる。

 でも、その衝撃が来る前に陽呂くんの腕がふわりと抱き留め、そっと寝かされた。


 顔が、近い……。

 ううん、それよりも……。


「えっと、陽呂くん? どうしてあたし押し倒されてるのかな?」

「ん? そうだな……お仕置きと、ついでに練習?」


 練習?

 練習って……学校で!?


 練習が何を意味するのか理解したあたしはすぐに起き上がろうとする。

 でも、その前に陽呂くんはいつもしているみたいに指を絡めてきて……。

 両手が、ベッドに押さえつけられる形になった。



「ひ、ひひひ陽呂くん!?」

「ん? なーに?」

 楽しそうに、甘く妖しく笑う陽呂くんは金曜日の夜の彼そのもので……。


「ど、どうしちゃったの? 学校でそんな顔、見せたことなかったのに……」

 学校での陽呂くんは徹底して陰キャだった。

 元々そういう性格だし、吸血鬼だって秘密にしていることもあるから学校ではあたしに極力関わらない様にしているみたいだったし……。
< 58 / 205 >

この作品をシェア

pagetop