陰キャの渡瀬くんは私だけに甘く咬みつく
 でも陽呂くんは「そうだっけ?」と口にするだけで、いつもの陰キャ状態には戻ってくれなかった。


 さっきまでは自信なさそうにしていたのに……。

 変わり過ぎだよ!


「そういえば、学校で二人きりになることなんてなかったもんな」

 コツンと額を当てられ、そんな呟きが降ってくる。

「俺、美夜と二人だけのときは基本こんなだよ?」

「っ!?」


 そ、そう言えばそうなのかも?

 ドキドキと鼓動を早まらせながら、思い返す。


 っていうか、本当に二人きりになる事なんて金曜日の夜くらいしかない。

 他はこの間みたいに陽呂くんの部屋にお邪魔したときだけど……。

 でも陽呂くんの部屋だと大体一階におばさんがいるから、この間みたいな事にはそうそうならないし。


「美夜にしかこんな俺見せないし、見せられない」

「っ!」

「分かってんの? 美夜は、俺の特別なんだけど?」

 唇が触れそうなほど近くで囁かれ、胸がドキドキどころかバクバク鳴る。

 今のあたし、絶対顔全部赤い。


「わ、分かってるよ? 陽呂くんの、“唯一”なんだよね?」

 ちゃんと分かってる。

 そう伝えたのに、陽呂くんは不満そうな声で「それだけじゃない」と呟きあたしの唇を塞いだ。
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