榊一族
「いいや、あれは椿だぜ。椿の中学の制服だから。」

そういえば、椿君と龍之介は同じ中学だったな。

「そうですね、すみません。うちの子は高校生ですから。」

明子さんもすぐ気づいた。

「何はともあれ、ちょっと行ってみるか。」

俺たちは車を路肩に止め、車を降りた。

椿君は下を向いて、何か考えごとをしているみたいだった。俺たちが近づくと顔を上げてビックリした。

「よぉ椿、サボりか?」

龍之介が笑いながら声をかける。

「おじさん…か、母さん?!」

椿君は明子さんを見るやいなや立ち上がって叫んだ。

「え?」

明子さんもびっくりしていた。

「違うよ椿、この人はあっこちゃん。この近くに住んでる女の子。」

この説明で納得したかはわからないが、椿君は座った。

「何してんのさ、こんなとこで。」

龍之介は椿君の隣に座った。

「おじさんたちの…跡をつけてた。」

なんだって?

「なんで?ってかどーやって?」

俺たちが家を出た頃、椿君はいなかったはず。いたとしても車を追いかけるのは徒歩では無理だ。

「学校…行く気しなくて…途中で帰ろうとしたらおじさんの車が見えた…でも追いつけなくて…」

椿君はぽつりぽつりと呟いた。
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