榊一族
わしはここまで聞いて本当に胸が痛んだ。

愚かじゃった。もう少し彼のことを考えるべきじゃった。

更に院長は続けた。

『私は彼がここを出た後、ご両親に彼の住所と電話番号をファックスで送りました。

そして何年か経ち、彼の家に行ったんです。彼は喜んで私を招き入れて部屋を案内してくれました。

きちんとご両親のお部屋までありましたよ。毎日きちんと掃除してると言ってました。

そして後は有名な先生に自分の作品を誉めてもらえたことや絵の依頼が増えたと喜んでましたね。

そして肝心のご両親の連絡ですが…何もないと言いました。

「いいんだよ先生。僕は二人が元気にやってれば。それに迎えに来てくれるってお母さんは約束してくれた。その時この家のことを話すんだ。僕は信じてるよ。きっと皆で一緒に済むことができる。」

私はもう彼の心に敬服するばかりでした。

だからもう彼にはなにも言えませんでした。

そしてまた彼は微笑んで言いました。

「先生、いつも僕のことを気にかけてくれてありがとう。すごく感謝してるよ。今まで言えなくてごめんね。」

私はただ泣くばかりでした。
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