GET BACK TOGETHER
私はタクシーを見送った後、アパートの階段を上る。

鍵を開けて玄関に入り、電気を点ける。

1LDKの部屋。

静まり返った部屋に一人だと思い知らされる。

でもこのままでいたらダメだと思い、私は暖房もつけずに部屋の真ん中に置いてあるローテーブルの前にコートを着たまま腰を下ろした。

そして携帯を鞄から取り出して立ち上げる。

光輝のアドレスを消すために。


『た行』を開いて高遠光輝の名前を押す。

そして編集ボタン。

あとは削除ボタンを押せば完全に消える。

ボタンを押して消すべきだ。


……でも、手が動いてくれない……。


あんな事実が分かったのに、消すことが出来ない情けない自分がいる……。

本当に情けない……。


「ふっ……」

情けなさ過ぎて涙が出てきた。
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