ヤナギ集落
神主は岩盤の前にたどり着くと何か祈った。
祈り終わるとほんの少し岩盤をずらした。
「さあ、どうぞご覧下さい。」

俺は岩盤の隙間から中を恐る恐る覗いた。



小さなテントが無数に張られ至る所で焚き火の炎が上がっていた。昔の衣服を着た人々は体の一部を失った者が多い。現代的な衣服の人々は普通に生活していた。俺の友人達も混ざっていた。小さな赤子を抱えた母親らしき人、歩くのもままならない老人、走り回る子供たちまで老若男女、様々な人が共同生活を送っていた。皆、目に生気がなく虚ろで表情も読み取れなかった。笑うわけでも無いのに数人で走り回って遊ぶ子供たち。それが1番不気味であった。

彼らは世界中に忘れられ存在を消された人々。彼らにあるはずだった物語、訪れるはずだった幸せ、その全てが消し去られた人々。

その者たちを記憶に留めておける俺にどんな責任が伴うのだろうか。彼らのために俺ができることはあるのだろうか。俺がこの集落から逃れ、外から彼らを見た、そのことにどんな意味があるのだろうか。

ショックと混乱が俺を支配する。
神主に呼ばれハッとする。

「そろそろ戻りましょうか。これ以上居ては見つかってしまいます。危険です。」

俺は神主に支えられながら麓へ降り、帰路に着いた。
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