【電子書籍化】どうやら魔導士さまたちに興味を持たれてしまったようです
6.「私と結婚しないか?」
「おい、フレド。ミーナを貸してくれ」
そう言いながらこの部屋に入ってくるような人物には、二人ほど心当たりがある。
「お前たちは一体何をやっているんだ?」
「えっと、初めての共同作業を」
とミーナが言ったときに「おい、ミーナ」とツッコミを入れてくれるのは、二人のうちの一人しかいない。つまり、騎士団長であるトファー。
「お前、もう少し言葉の使い方を勉強した方がいいぞ?」
「え。見たままですよね? これは、私とオリンさまの共同作業ですよね」
「そうかもしれないが、その言い方は誤解を与えるからやめておけ」
どんな誤解? とミーナはフレドリックの顔を見上げたが、彼もさあ? と首と傾けた。
ミーナはすっぽりとフレドリックの身体に包まれていた。ミーナが構えている剣を、フレドリックは彼女の背後に立ち、そこから手を伸ばして剣を一緒に構えていた。
「で、何をしているところだ? まさかフレドがミーナに剣術を教えている、というわけではないだろう? その逆ならわかるが」
「魔法付与です。以前、トファーさまからいただいたドラゴンの角。それでこの剣を作り終わりましたので、魔法付与をしていたところにトファーさまがやってきた、ということになります」
「それは悪かったな。終わるまで待ってるわ」
トファーはいつものソファにドサッと腰を沈めた。ただ、この二人のこのような状態を目にするのは、心の毒だ。だが、魔法付与に興味はある。仕方ない、毒を食らわば皿までだと思って、じっと見ることにした。
剣がぽわっと赤く光る。確かあのドラゴンはレッドドラゴンだった。そのドラゴンの角を使った剣ということは、炎の魔法でも付与をしているのだろうか。
「終わりだ」
フレドリックが静かに呟き、その剣から手を離すとミーナからも離れた。
「どうだ?」
「私には、いつもと変わらないように思えます。あ、そうだ、トファーさま」
「なんだ。俺を巻き込むなよ」
「いや、この魔導剣。もしかして、トファーさまでも使うことができますかね、ということを確認したくて」
「お前たちの共同作業の剣など、恐ろしくて使えねーよ」
とか言いながら、手を差し出すトファーは、やはり興味はあるらしい。
「どうぞ」
ミーナがその剣をトファーに渡した。その途端。
「あちっ」
とトファーは手を引いた。「なんだ、これ。熱くて持てねーぞ?」
「そんなことないですよ」
トファーが落とした剣を、ミーナは膝を折って拾い上げた。
「ほら」
「ミーナ。それ、危ないから振り回すな。そして、さっさと仕舞え」
どうやらトファーはその剣から熱を感じているらしい。持たなくても、熱いと言う。だから、さっさと仕舞えという流れ。
「オリンさま。持てますか?」
ミーナはその剣をフレドリックに持たせてみた。彼は難なく持てるらしい。
「ですが、オリンさまが魔導剣を持てたとしても、これでは宝の持ち腐れ。あー、せっかくのレッドドラゴンの角がぁっ。魔法付与、失敗じゃないですか」
頭を両手で抱え込むミーナ。
「失敗なのか?」
逆にトファーに問われてしまった。
「結局、私とオリンさましか使えないのであれば、今までとかわらないじゃないですか。本当は騎士団の皆さんにも使っていただこうと思っていたのに」
ミーナはフレドリックからその剣を受け取ると、いつもの腕輪の中に仕舞い込んだ。それもこれもトファーがさっさと仕舞え、と言ったからである。
「あ、すぐにお茶をいれますね」
ミーナはパタパタとお茶の準備を始める。フレドリックはトファーの向かい側に黙って座る。
お互いが無言。これはどちらかが先に言葉を発した方が負け、とかそういうゲームなのではないか、というくらいの無言。
「お待たせしました」
とその無言の空間をミーナがぶち壊す。
二人の前にお茶の入ったカップを置くと、ミーナはいつもの通りフレドリックの隣に座る。
「それで、トファーさま。どのようなご用件でしたか?」
フレドリックが何も言いそうにないため、代わりにミーナが口を開いた。
「ああ、そうだそうだ。ミーナ、お前に用事があって来たんだ。悪いんだが、次の討伐に同行して欲しい」
その言葉に反応したのはフレドリック。
「どこだ?」
「またウルセライだ。そんでもって、またドラゴンだよ、ドラゴン」
トファーのその答えに。
「もしかして、またあの洞窟ですか?」
ついつい尋ねてしまうミーナ。
「ご名答」
トファーは右手の人差し指をピシッと立てた。
「えー」
といかにも嫌そうな顔をするミーナ。「あそこ、走りにくいんですよね」
「走りにくいね、それよりもミーナ。お前、しばらく見ない間に、やっぱり太ったんじゃないのか? それで、本当に走れるのか?」
「トファーさま。人が気にしていることを」
「とか言いながら、そうやって菓子に手を伸ばしてるからだろ」
その手をピシャリとトファーに叩かれる。
「酷い」
叩かれた手をわざとらしく反対の手でさするミーナ。
そんな二人のやり取りを面白くなさそうに見ているフレドリック。
「また、レッドドラゴンか?」
不機嫌そうな口調でフレドリックが尋ねた。その不機嫌さにトファーも気付いた。
「いんや」
トファーはソファに寄り掛かって、腕を組んだ。「今度はホワイトドラゴン。しかも二匹」
「ホワイトドラゴンは討伐の対象じゃないですよ。むしろ、保護の対象じゃないですか」
懲りずにミーナはお菓子をモグモグと食べていた。
「そうだ。だからお前も連れて行きたいんだよ、ミーナ」
「私も行こう」
トファーは思わずその声の主を見てしまった。
「あ、お前が?」
このときのトファーの「あ」はむしろあに濁点が入ったものに近い。
「何か文句あるのか?」
「いや、無いけど。お前が魔物討伐に行きたいだなんて。どういう風の吹き回しだ? 今までこっちから頼んだって、行こうとしなかった奴が」
「ホワイトドラゴンだからだ」
前回もレッドドラゴンに釣られたフレドリックではあるが。
「こいつ一人では無理だ」
フレドリックの言うこいつとはもちろんミーナのこと。
「もちろん、騎士団だけでも無理だ。だから、私も出る」
「そう、はっきり無理って言われても、イラっとするけど。まあ、相手がホワイトドラゴンだから仕方ないっちゃ仕方ないか」
そこでトファーは腰をあげた。
「エドには俺から言っておくわ。それよりもミーナ」
「はい」
思わず姿勢を正してしまう。
「もう少し、痩せろ」
去り際にそんなことをトファーから言われてしまう。反論したかったにも関わらず、彼はそれだけ言うと勝手に部屋を出ていく。
「オリンさま」
おずおずとミーナはフレドリックに尋ねる。
「私、そんなに太りましたか?」
難易度の高い質問だった。これに対する正しい答えはなんだ。とりあえず。
「そうか、私は気付かなかったが」
とだけ言っておいた。
そう言いながらこの部屋に入ってくるような人物には、二人ほど心当たりがある。
「お前たちは一体何をやっているんだ?」
「えっと、初めての共同作業を」
とミーナが言ったときに「おい、ミーナ」とツッコミを入れてくれるのは、二人のうちの一人しかいない。つまり、騎士団長であるトファー。
「お前、もう少し言葉の使い方を勉強した方がいいぞ?」
「え。見たままですよね? これは、私とオリンさまの共同作業ですよね」
「そうかもしれないが、その言い方は誤解を与えるからやめておけ」
どんな誤解? とミーナはフレドリックの顔を見上げたが、彼もさあ? と首と傾けた。
ミーナはすっぽりとフレドリックの身体に包まれていた。ミーナが構えている剣を、フレドリックは彼女の背後に立ち、そこから手を伸ばして剣を一緒に構えていた。
「で、何をしているところだ? まさかフレドがミーナに剣術を教えている、というわけではないだろう? その逆ならわかるが」
「魔法付与です。以前、トファーさまからいただいたドラゴンの角。それでこの剣を作り終わりましたので、魔法付与をしていたところにトファーさまがやってきた、ということになります」
「それは悪かったな。終わるまで待ってるわ」
トファーはいつものソファにドサッと腰を沈めた。ただ、この二人のこのような状態を目にするのは、心の毒だ。だが、魔法付与に興味はある。仕方ない、毒を食らわば皿までだと思って、じっと見ることにした。
剣がぽわっと赤く光る。確かあのドラゴンはレッドドラゴンだった。そのドラゴンの角を使った剣ということは、炎の魔法でも付与をしているのだろうか。
「終わりだ」
フレドリックが静かに呟き、その剣から手を離すとミーナからも離れた。
「どうだ?」
「私には、いつもと変わらないように思えます。あ、そうだ、トファーさま」
「なんだ。俺を巻き込むなよ」
「いや、この魔導剣。もしかして、トファーさまでも使うことができますかね、ということを確認したくて」
「お前たちの共同作業の剣など、恐ろしくて使えねーよ」
とか言いながら、手を差し出すトファーは、やはり興味はあるらしい。
「どうぞ」
ミーナがその剣をトファーに渡した。その途端。
「あちっ」
とトファーは手を引いた。「なんだ、これ。熱くて持てねーぞ?」
「そんなことないですよ」
トファーが落とした剣を、ミーナは膝を折って拾い上げた。
「ほら」
「ミーナ。それ、危ないから振り回すな。そして、さっさと仕舞え」
どうやらトファーはその剣から熱を感じているらしい。持たなくても、熱いと言う。だから、さっさと仕舞えという流れ。
「オリンさま。持てますか?」
ミーナはその剣をフレドリックに持たせてみた。彼は難なく持てるらしい。
「ですが、オリンさまが魔導剣を持てたとしても、これでは宝の持ち腐れ。あー、せっかくのレッドドラゴンの角がぁっ。魔法付与、失敗じゃないですか」
頭を両手で抱え込むミーナ。
「失敗なのか?」
逆にトファーに問われてしまった。
「結局、私とオリンさましか使えないのであれば、今までとかわらないじゃないですか。本当は騎士団の皆さんにも使っていただこうと思っていたのに」
ミーナはフレドリックからその剣を受け取ると、いつもの腕輪の中に仕舞い込んだ。それもこれもトファーがさっさと仕舞え、と言ったからである。
「あ、すぐにお茶をいれますね」
ミーナはパタパタとお茶の準備を始める。フレドリックはトファーの向かい側に黙って座る。
お互いが無言。これはどちらかが先に言葉を発した方が負け、とかそういうゲームなのではないか、というくらいの無言。
「お待たせしました」
とその無言の空間をミーナがぶち壊す。
二人の前にお茶の入ったカップを置くと、ミーナはいつもの通りフレドリックの隣に座る。
「それで、トファーさま。どのようなご用件でしたか?」
フレドリックが何も言いそうにないため、代わりにミーナが口を開いた。
「ああ、そうだそうだ。ミーナ、お前に用事があって来たんだ。悪いんだが、次の討伐に同行して欲しい」
その言葉に反応したのはフレドリック。
「どこだ?」
「またウルセライだ。そんでもって、またドラゴンだよ、ドラゴン」
トファーのその答えに。
「もしかして、またあの洞窟ですか?」
ついつい尋ねてしまうミーナ。
「ご名答」
トファーは右手の人差し指をピシッと立てた。
「えー」
といかにも嫌そうな顔をするミーナ。「あそこ、走りにくいんですよね」
「走りにくいね、それよりもミーナ。お前、しばらく見ない間に、やっぱり太ったんじゃないのか? それで、本当に走れるのか?」
「トファーさま。人が気にしていることを」
「とか言いながら、そうやって菓子に手を伸ばしてるからだろ」
その手をピシャリとトファーに叩かれる。
「酷い」
叩かれた手をわざとらしく反対の手でさするミーナ。
そんな二人のやり取りを面白くなさそうに見ているフレドリック。
「また、レッドドラゴンか?」
不機嫌そうな口調でフレドリックが尋ねた。その不機嫌さにトファーも気付いた。
「いんや」
トファーはソファに寄り掛かって、腕を組んだ。「今度はホワイトドラゴン。しかも二匹」
「ホワイトドラゴンは討伐の対象じゃないですよ。むしろ、保護の対象じゃないですか」
懲りずにミーナはお菓子をモグモグと食べていた。
「そうだ。だからお前も連れて行きたいんだよ、ミーナ」
「私も行こう」
トファーは思わずその声の主を見てしまった。
「あ、お前が?」
このときのトファーの「あ」はむしろあに濁点が入ったものに近い。
「何か文句あるのか?」
「いや、無いけど。お前が魔物討伐に行きたいだなんて。どういう風の吹き回しだ? 今までこっちから頼んだって、行こうとしなかった奴が」
「ホワイトドラゴンだからだ」
前回もレッドドラゴンに釣られたフレドリックではあるが。
「こいつ一人では無理だ」
フレドリックの言うこいつとはもちろんミーナのこと。
「もちろん、騎士団だけでも無理だ。だから、私も出る」
「そう、はっきり無理って言われても、イラっとするけど。まあ、相手がホワイトドラゴンだから仕方ないっちゃ仕方ないか」
そこでトファーは腰をあげた。
「エドには俺から言っておくわ。それよりもミーナ」
「はい」
思わず姿勢を正してしまう。
「もう少し、痩せろ」
去り際にそんなことをトファーから言われてしまう。反論したかったにも関わらず、彼はそれだけ言うと勝手に部屋を出ていく。
「オリンさま」
おずおずとミーナはフレドリックに尋ねる。
「私、そんなに太りましたか?」
難易度の高い質問だった。これに対する正しい答えはなんだ。とりあえず。
「そうか、私は気付かなかったが」
とだけ言っておいた。