【電子書籍化】どうやら魔導士さまたちに興味を持たれてしまったようです
女性店員が一人きて、ミーナは別室へと連れて行った。多分、採寸のためだ。フレドリックは一人、椅子に座ってそれを待つ。こういった時間も悪くはない、と思えるようになった。
とその時。
「ぎゃー」
という女性の悲鳴が聞こえてきて、フレドリックは半分腰を浮かせた。半分でやめたのは、その悲鳴の主がミーナではないということに気付いたからだ。
「てんちょー。この子、身体がすごくエロいのに、つけてる下着の色気がないんですぅ」
半泣きしそうな女性店員。
それって、重要なことなの? と別室で下着姿にさせられたミーナは思っていた。
その女性店員はフレドリックのことを知らないのだろう。だから、そんなことを平気で口にするのだ。後で聞いた話によると、ここ一年で雇った店員らしい。腕はいいのだが、接客が残念な感じの店員、とのこと。また逆に、それを気に入ってくれる客もいるのだとか。
「旦那様。奥様の下着の方も、私の方で見繕ってもよろしいでしょうか。近くに、ランジェリーショップがございますので」
知らないとは恐ろしい。女性店員、名をタニラと言うのだが、彼女はずずいとフレドリックに顔を近づけて言った。
「ああ、任せる」
フレドリックは彼女から顔を背けるようにして、答えた。
彼女の言い分を訂正する気にはなれなかった。まだ奥様ではない、と。
そして、はたと気付く。ミーナは今、下着姿にされているらしい。ということは。
深く考えることを放棄した。
採寸が終わったのだろう。ミーナは、女性店員と共に店を出ていく。仕方ないから、フレドリックは店主とドレスのデザインについて話をすることにした。フレドリック的には何でもいいのだが。それは投げやり的な何でもいい、のではなく、彼女ならどんなドレスも似合いそうだから、と思っている。ただ、今後のことを考えて、連れ出す内容にあったドレスのデザインを店主に決めてもらった。色も、彼女に似合うような。
ミーナがタニラと一緒に戻ってきた。彼女の右手には先ほどまでなかった袋が握られている。
「こちらのお代もドレスと一緒に請求しますが、よろしいでしょうか」
タニラのそれに「問題ない」とフレドリックは答える。
「もしかして、てんちょー。ミーナさんのドレスのデザインとかって決まってしまったんですか? 私も決めたかったのに。今、一緒にいて、ミーナさんのイメージがばんばん沸いてきちゃいましたよ」
そう、彼女は、腕はいいらしい。そしてミーナも、フレドリックが見る限り、懐いている。
「だったら、すべて任せる。彼女のイメージを損なわないものであればいい」
フレドリックが言いながら立ち上がったため、タニラは「まかせてください」と胸を叩いた。
店主のハラハラしている様子は見て取れるのだが、ミーナがニコニコと喜んでいるせいか、それほど腹立たしくない。
「できあがりましたら、お屋敷の方にお持ちすればよろしいですか?」
「いや、魔導士団の方へ頼む。あっちには、ずっと戻っていないからな」
フレドリックが苦笑すると、店主は「承知しました」とだけ答えた。
その店を後にする二人。ミーナが手にしていた袋をフレドリックが無言で奪う。と同時に再び左手を差し出す。ミーナは少し速足で彼に追いつくと、その手を握った。
「他に、どこか行きたい場所はあるのか」
「えっと。特に、思い浮かばないです」
「何も遠慮する必要はない」
「えっと。そしたら、あの。お菓子屋さんに。戻ってから一緒に食べるお菓子を買って帰りましょう」
「お前は、食べることばかりだな。肉はいいのか?」
くすりとフレドリックが笑みをこぼした。
「お肉は、もらえますので」
「お菓子だってもらっているだろ?」
「自分で選びたい時だってあるんです」
「そうか」
フレドリックが優しく微笑んでミーナを見下ろすと、彼女も彼を見上げて嬉しそうに笑った。
以前、ミーナが高級菓子と騒いでいた菓子屋に寄ることにした。いかにも彼女が好きそうなお菓子が並んでいる。
彼女があまりにも真剣な顔で悩んでいたので。
「遠慮せずに選べ」と言ったところ、本当に遠慮せずに選んできた。全部で十種類。一人で食べるのかと思いきや。
「フレドさまと半分こずつ食べたら、全種類食べることができますよね」
フレドリックも彼女と一緒であれば、彼女が作ったもので無いものも食べることができるようになっていた。まあ、それもお菓子のような甘いものが多いのだが。
来た時と同じように裏門から入る。そして同じように門番を眠らせる。その手慣れた様子。絶対、いつもの手口に違いない。
「フレドさまは、あまり研究室から出ないと聞いていたのですが」
違いますかね、という意味を込めて、彼を見上げた。
「他のやつから見たら、そう見えるかもしれないな。お前は、部屋に戻るのか?」
このフレドリックが言う部屋が、どの部屋かはわからなかったが、フレドリックと一緒に食べようと思って買ってしまったお菓子がある。それを見てからフレドリックを見上げた。
「できれば、もう少しフレドさまと一緒にいたいのですが」
ミーナのその言葉にどうやらフレドリックは気分を良くしたらしい。そうか、と満足そうに頷いている。ミーナとしては、一緒にお菓子を食べたい、と続けたかったのだが、それをちょっとためらった。
先ほどの待ち合わせの場所まで戻ってきた。魔導士団の建物の裏側。
「少し、待っていろ」
フレドリックはその建物に向かい、何か念じる。そこはただの壁だと思っていたのに、人が出入りできるような扉が現れた。
「え、え、え?」
驚いているミーナも可愛らしいな、と思っているフレドリックだった。
とその時。
「ぎゃー」
という女性の悲鳴が聞こえてきて、フレドリックは半分腰を浮かせた。半分でやめたのは、その悲鳴の主がミーナではないということに気付いたからだ。
「てんちょー。この子、身体がすごくエロいのに、つけてる下着の色気がないんですぅ」
半泣きしそうな女性店員。
それって、重要なことなの? と別室で下着姿にさせられたミーナは思っていた。
その女性店員はフレドリックのことを知らないのだろう。だから、そんなことを平気で口にするのだ。後で聞いた話によると、ここ一年で雇った店員らしい。腕はいいのだが、接客が残念な感じの店員、とのこと。また逆に、それを気に入ってくれる客もいるのだとか。
「旦那様。奥様の下着の方も、私の方で見繕ってもよろしいでしょうか。近くに、ランジェリーショップがございますので」
知らないとは恐ろしい。女性店員、名をタニラと言うのだが、彼女はずずいとフレドリックに顔を近づけて言った。
「ああ、任せる」
フレドリックは彼女から顔を背けるようにして、答えた。
彼女の言い分を訂正する気にはなれなかった。まだ奥様ではない、と。
そして、はたと気付く。ミーナは今、下着姿にされているらしい。ということは。
深く考えることを放棄した。
採寸が終わったのだろう。ミーナは、女性店員と共に店を出ていく。仕方ないから、フレドリックは店主とドレスのデザインについて話をすることにした。フレドリック的には何でもいいのだが。それは投げやり的な何でもいい、のではなく、彼女ならどんなドレスも似合いそうだから、と思っている。ただ、今後のことを考えて、連れ出す内容にあったドレスのデザインを店主に決めてもらった。色も、彼女に似合うような。
ミーナがタニラと一緒に戻ってきた。彼女の右手には先ほどまでなかった袋が握られている。
「こちらのお代もドレスと一緒に請求しますが、よろしいでしょうか」
タニラのそれに「問題ない」とフレドリックは答える。
「もしかして、てんちょー。ミーナさんのドレスのデザインとかって決まってしまったんですか? 私も決めたかったのに。今、一緒にいて、ミーナさんのイメージがばんばん沸いてきちゃいましたよ」
そう、彼女は、腕はいいらしい。そしてミーナも、フレドリックが見る限り、懐いている。
「だったら、すべて任せる。彼女のイメージを損なわないものであればいい」
フレドリックが言いながら立ち上がったため、タニラは「まかせてください」と胸を叩いた。
店主のハラハラしている様子は見て取れるのだが、ミーナがニコニコと喜んでいるせいか、それほど腹立たしくない。
「できあがりましたら、お屋敷の方にお持ちすればよろしいですか?」
「いや、魔導士団の方へ頼む。あっちには、ずっと戻っていないからな」
フレドリックが苦笑すると、店主は「承知しました」とだけ答えた。
その店を後にする二人。ミーナが手にしていた袋をフレドリックが無言で奪う。と同時に再び左手を差し出す。ミーナは少し速足で彼に追いつくと、その手を握った。
「他に、どこか行きたい場所はあるのか」
「えっと。特に、思い浮かばないです」
「何も遠慮する必要はない」
「えっと。そしたら、あの。お菓子屋さんに。戻ってから一緒に食べるお菓子を買って帰りましょう」
「お前は、食べることばかりだな。肉はいいのか?」
くすりとフレドリックが笑みをこぼした。
「お肉は、もらえますので」
「お菓子だってもらっているだろ?」
「自分で選びたい時だってあるんです」
「そうか」
フレドリックが優しく微笑んでミーナを見下ろすと、彼女も彼を見上げて嬉しそうに笑った。
以前、ミーナが高級菓子と騒いでいた菓子屋に寄ることにした。いかにも彼女が好きそうなお菓子が並んでいる。
彼女があまりにも真剣な顔で悩んでいたので。
「遠慮せずに選べ」と言ったところ、本当に遠慮せずに選んできた。全部で十種類。一人で食べるのかと思いきや。
「フレドさまと半分こずつ食べたら、全種類食べることができますよね」
フレドリックも彼女と一緒であれば、彼女が作ったもので無いものも食べることができるようになっていた。まあ、それもお菓子のような甘いものが多いのだが。
来た時と同じように裏門から入る。そして同じように門番を眠らせる。その手慣れた様子。絶対、いつもの手口に違いない。
「フレドさまは、あまり研究室から出ないと聞いていたのですが」
違いますかね、という意味を込めて、彼を見上げた。
「他のやつから見たら、そう見えるかもしれないな。お前は、部屋に戻るのか?」
このフレドリックが言う部屋が、どの部屋かはわからなかったが、フレドリックと一緒に食べようと思って買ってしまったお菓子がある。それを見てからフレドリックを見上げた。
「できれば、もう少しフレドさまと一緒にいたいのですが」
ミーナのその言葉にどうやらフレドリックは気分を良くしたらしい。そうか、と満足そうに頷いている。ミーナとしては、一緒にお菓子を食べたい、と続けたかったのだが、それをちょっとためらった。
先ほどの待ち合わせの場所まで戻ってきた。魔導士団の建物の裏側。
「少し、待っていろ」
フレドリックはその建物に向かい、何か念じる。そこはただの壁だと思っていたのに、人が出入りできるような扉が現れた。
「え、え、え?」
驚いているミーナも可愛らしいな、と思っているフレドリックだった。