【電子書籍化】どうやら魔導士さまたちに興味を持たれてしまったようです
9.「言いたい奴には言わせておけ」
次の日。ミーナのことを知らせるためにフレドリックの元に足を運んだら、彼はまだ寝ているようだった。また、前のような生活に戻っている、とエドアルドは思う。仕方ないので、昼過ぎにもう一度足を運んだ。
「ミーナは当分、俺の方で預かることにしたからな」
「そうか」
フレドリックは魔導書から顔をあげずに答えた。これ以上、何を言っても返ってくる言葉は「そうか」だろう。だから、それ以上は何も言わない。黙ってそこを出て行く。
とりあえず、何日持つかな、とエドアルドは思った。その何日持ったかの結果が出たのは、それから四日後のことだった。
「おい」
勢いよくエドアルドの執務室に入ってきたのはもちろんフレドリック。
「ミーナを返せ」
「返せって、人聞きが悪いな。彼女は魔導士団の人間だ。団長である俺が配属先を決めて何が悪い?」
エドアルドはわざとそんなことを言う。そう、わざとだ。
「彼女を異動させたのか?」
「いや。まだ、所属はお前のところだが。これ以上長引くようなら、シルヴァンの下につける」
フレドリックの右眉がピクリと動いた。
「いいから、彼女に会わせろ」
「残念ながら、ミーナはここにはいないんだよね」
また、フレドリックの右眉がピクリと動いた。
「どこにやったんだ」
フレドリックがつかつかと近づいてきて、ジロリとエドアルドを睨みつける。
「俺の家」
「なんでお前の家にいる」
「お前のせいだろ」
「私のせいだと?」
そこでエドアルドはため息をついた。それはもう、激しく、盛大に。
「まあ、いい。今日の仕事が終わったら、ミーナに会わせてやる」
だからさっさと戻れ、とでも言うように右手をしっしっと振った。ちっと舌打ちをしたフレドリックは、追い出されるようにしてその部屋から出た。
エドアルドが今日の仕事を終え、帰宅するためにフレドリックの部屋へと寄ったところ、その部屋の変貌ぶりに顔をしかめるしかなかった。ミーナがいなくなってほんの数日。なぜこんなにも床が見えなくなってしまうのか。
「おい、フレド。俺は帰るが、お前はどうする?」
「行く」
のそりと立ち上がった。本当にこれでは昔のフレドリックだ。むしろ、これが本来の彼の姿なのかもしれないが。
エドアルドがフレドリックを引き連れて屋敷に戻ると。
「団長、お帰りなさい」
と笑顔を浮かべていたミーナの顔が、一瞬で引きつった。
「悪いが今日は客人を連れてきた。準備をしてもらえるか」
エドアルドは使用人に言う。彼らは黙って指示されたことを行う。
「ミーナ」
フレドリックが彼女の名を口にすると、彼女は少し身体を固くした。
「ミーナさん。私と一緒に、こちらに」
フレドリックの見知らぬ女性がミーナに声をかけ、彼女を連れて行く。
フレドリックはエドアルドに連れられて談話室へと向かう。何が悲しくてエドアルドと二人で茶を飲まねばならないのか。
「大丈夫だ、フレド。変な物はいれてないから」
あはははー、とエドアルドが豪快に笑う。このフレドリックの警戒心の強さは相変わらずである。
「ミーナは?」
目の前の物には手を付けず、フレドリックは尋ねた。
「あー、多分。着替えているんじゃないか?」
「着替え?」
「お前が言ったんだろ、ミーナに。恥をかかせるなって」
「言ったが、それは」
結婚をしないと言い切ったミーナに対してだ。つまり、そう言われたから言い返しただけ。
「お前さ。本当にミーナのことが好きなわけ?」
エドアルドは右手で頬杖をつきながら尋ねた。そんなの見てれば面白いのにわかるのだが、彼の口からそのようなことを聞いたことは無い。
「なぜ、そんなことを聞く?」
ジロリと睨まれた。
「別に」
と言って誤魔化す。
「ミーナさんをお連れしました」
先ほどミーナを連れて行ったフレドリックの見知らぬ女性が、ミーナを連れて現れた。目にしたことの無いドレスを着ている。髪の毛もいつものように高い位置で一つに縛っているのではなく、すっきりとアップにされていて少し後れ毛がちらちらと揺れている。
「な……」
フレドリックは言葉を詰まらせた。あまりにもの変貌ぶりに。なんだろう、どこからどう見てもどこかのご令嬢。正装したフレドリックの隣に並んでいてもおかしくない。
「ミーナさんは、やはり元がいいんですよ。ドレスもお似合いですけれど、その勉強の熱心さ、そして飲み込みの早さには驚かされますもの」
「えっと、それは先生のおかげです」
とミーナはその女性に言う。先生、つまりミーナにいろいろマナーや何やらを教えている人物、ということだろう。
「オリンさま。ご無沙汰しております」
ミーナは堂々とフレドリックに挨拶をした。多分、ここに来てから覚えたと思われるそれで。
「ああ。元気そうでよかった」
「どうだ、フレド。まだ数日しか経っていないが、これでお前の隣に並んでも恥ずかしくはないだろう?」
だから、そういう意味で言ったわけではない、というのに。だけど「ああ、そうだな」と返事をしてしまう。
「というわけで役者は揃ったわけだ」
エドアルドが立ち上がり、ミーナの元へとゆっくり歩み寄る。
「ミーナ」
エドアルドはゆっくりと彼女の名を呼んだ。そして。
「俺と家族にならないか?」
「え?」
ミーナの目の前にはエドアルド。その後ろでフレドリックがものすごい形相でこちらを睨んでいる。
なんでこんな流れになるんだっけ? とミーナは思わずにはいられない。
「ミーナは当分、俺の方で預かることにしたからな」
「そうか」
フレドリックは魔導書から顔をあげずに答えた。これ以上、何を言っても返ってくる言葉は「そうか」だろう。だから、それ以上は何も言わない。黙ってそこを出て行く。
とりあえず、何日持つかな、とエドアルドは思った。その何日持ったかの結果が出たのは、それから四日後のことだった。
「おい」
勢いよくエドアルドの執務室に入ってきたのはもちろんフレドリック。
「ミーナを返せ」
「返せって、人聞きが悪いな。彼女は魔導士団の人間だ。団長である俺が配属先を決めて何が悪い?」
エドアルドはわざとそんなことを言う。そう、わざとだ。
「彼女を異動させたのか?」
「いや。まだ、所属はお前のところだが。これ以上長引くようなら、シルヴァンの下につける」
フレドリックの右眉がピクリと動いた。
「いいから、彼女に会わせろ」
「残念ながら、ミーナはここにはいないんだよね」
また、フレドリックの右眉がピクリと動いた。
「どこにやったんだ」
フレドリックがつかつかと近づいてきて、ジロリとエドアルドを睨みつける。
「俺の家」
「なんでお前の家にいる」
「お前のせいだろ」
「私のせいだと?」
そこでエドアルドはため息をついた。それはもう、激しく、盛大に。
「まあ、いい。今日の仕事が終わったら、ミーナに会わせてやる」
だからさっさと戻れ、とでも言うように右手をしっしっと振った。ちっと舌打ちをしたフレドリックは、追い出されるようにしてその部屋から出た。
エドアルドが今日の仕事を終え、帰宅するためにフレドリックの部屋へと寄ったところ、その部屋の変貌ぶりに顔をしかめるしかなかった。ミーナがいなくなってほんの数日。なぜこんなにも床が見えなくなってしまうのか。
「おい、フレド。俺は帰るが、お前はどうする?」
「行く」
のそりと立ち上がった。本当にこれでは昔のフレドリックだ。むしろ、これが本来の彼の姿なのかもしれないが。
エドアルドがフレドリックを引き連れて屋敷に戻ると。
「団長、お帰りなさい」
と笑顔を浮かべていたミーナの顔が、一瞬で引きつった。
「悪いが今日は客人を連れてきた。準備をしてもらえるか」
エドアルドは使用人に言う。彼らは黙って指示されたことを行う。
「ミーナ」
フレドリックが彼女の名を口にすると、彼女は少し身体を固くした。
「ミーナさん。私と一緒に、こちらに」
フレドリックの見知らぬ女性がミーナに声をかけ、彼女を連れて行く。
フレドリックはエドアルドに連れられて談話室へと向かう。何が悲しくてエドアルドと二人で茶を飲まねばならないのか。
「大丈夫だ、フレド。変な物はいれてないから」
あはははー、とエドアルドが豪快に笑う。このフレドリックの警戒心の強さは相変わらずである。
「ミーナは?」
目の前の物には手を付けず、フレドリックは尋ねた。
「あー、多分。着替えているんじゃないか?」
「着替え?」
「お前が言ったんだろ、ミーナに。恥をかかせるなって」
「言ったが、それは」
結婚をしないと言い切ったミーナに対してだ。つまり、そう言われたから言い返しただけ。
「お前さ。本当にミーナのことが好きなわけ?」
エドアルドは右手で頬杖をつきながら尋ねた。そんなの見てれば面白いのにわかるのだが、彼の口からそのようなことを聞いたことは無い。
「なぜ、そんなことを聞く?」
ジロリと睨まれた。
「別に」
と言って誤魔化す。
「ミーナさんをお連れしました」
先ほどミーナを連れて行ったフレドリックの見知らぬ女性が、ミーナを連れて現れた。目にしたことの無いドレスを着ている。髪の毛もいつものように高い位置で一つに縛っているのではなく、すっきりとアップにされていて少し後れ毛がちらちらと揺れている。
「な……」
フレドリックは言葉を詰まらせた。あまりにもの変貌ぶりに。なんだろう、どこからどう見てもどこかのご令嬢。正装したフレドリックの隣に並んでいてもおかしくない。
「ミーナさんは、やはり元がいいんですよ。ドレスもお似合いですけれど、その勉強の熱心さ、そして飲み込みの早さには驚かされますもの」
「えっと、それは先生のおかげです」
とミーナはその女性に言う。先生、つまりミーナにいろいろマナーや何やらを教えている人物、ということだろう。
「オリンさま。ご無沙汰しております」
ミーナは堂々とフレドリックに挨拶をした。多分、ここに来てから覚えたと思われるそれで。
「ああ。元気そうでよかった」
「どうだ、フレド。まだ数日しか経っていないが、これでお前の隣に並んでも恥ずかしくはないだろう?」
だから、そういう意味で言ったわけではない、というのに。だけど「ああ、そうだな」と返事をしてしまう。
「というわけで役者は揃ったわけだ」
エドアルドが立ち上がり、ミーナの元へとゆっくり歩み寄る。
「ミーナ」
エドアルドはゆっくりと彼女の名を呼んだ。そして。
「俺と家族にならないか?」
「え?」
ミーナの目の前にはエドアルド。その後ろでフレドリックがものすごい形相でこちらを睨んでいる。
なんでこんな流れになるんだっけ? とミーナは思わずにはいられない。