【電子書籍化】どうやら魔導士さまたちに興味を持たれてしまったようです
隣の部屋へと続く扉から、再びフレドリックが姿を現した時。
「お食事はどうなさいますか?」
テーブルに並べられたパンと果物を見て「これは、お前が作ったのか」と確認してきた。
「あ、はい」
「そうか」
フレドリックが椅子を引いて、そこに座った。「お前は食べたのか?」
「いえ、まだです」
「だったら、一緒に食え」
「では、お飲み物の準備をいたしますね」
ミーナはフレドリックが準備した食事を食べてくれる、ということが嬉しかった。エドアルドから聞いた話によると、フレドリックは誰が作ったかわからないものは食べない、ということだった。だから、あのドラゴン討伐のときに寄った食堂で、飲み物しか口にしていなかったんだな、と思った。
「お前は料理もできるのか?」
食べながら、フレドリックが聞いてきた。
「あ、はい。簡単なものでしたら作れます。ずっと孤児院にいましたので」
「孤児院? 親は?」
「知りません。気付いたら、孤児院にいましたので」
「そうか。悪かった」
「あの、ええと。気にしないでください」
「今日は何をしていた?」
「え」
「私が寝ていた間だ。そのときからここに来ていたのだろう」
「あ、はい。片付けを少々」
「片付け? だから、部屋が歩きやすかったのか」
あれだけ散らかっていたものを片付けたのに、歩きやすかったという表現をするのがフレドリックらしい、と言えばらしい。笑いがこぼれそうになったので、ミーナは左手で口元を押さえた。
「どうかしたか?」
それを目ざとくフレドリックが見つける。
「いえ、何も」
少し、フレドリックと打ち解けたような気がする。多分。
食事を終えると、ミーナが片づけをする。フレドリックは自分の席に座って、分厚い何かの本を読み始めた。
ミーナはお茶を淹れて、そっと机の上に置いた。フレドリックはそれに気付いたのか気付かないのか、何も言わずに手にとり、そして何事も無かったかのようにそれを飲んで、また机の上に置く。それがあまりにも自然で、以前にも誰かがそのようなことをしていたのか、と疑いたくなるほど。
「あの、オリンさま。読書中のところ、申し訳ございません」
本当は声をかけたくなかったのだが。「私は、何をしたらよろしいでしょうか」
フレドリックは、また自然にお茶を手にして一口飲んでから。
「そうか、今日はお前がいたのか」
「はい。今日からずっといます」
「ずっと?」
「はい、多分」
「多分?」
「多分です。もしかしたら、騎士団のほうに戻るかもしれませんが」
「そうか。そうなったら、それはそれで困るな」
フレドリックは立ち上がった。そして、ぐるっと机をの周りを歩いてきて、ミーナの前に立った。
「手を出せ」
言われ、今持っていたお盆を右の脇に挟んで両手の平を上にして差し出した。
「これは邪魔だな」
彼女の小脇にあったお盆をすっと抜いて、机の上に置いた。そして、ミーナの両手に自分の手を重ねる。
何をされているかはわからない。だけど、手の平が少し温かさを感じる。
「やっぱり、面白いな」
フレドリックはミーナに魔力を注いでみた。彼女はその魔力を吸収する力を持っている。だが、本人は気付いていない。どこまで魔力を吸収するのか。フレドリックはそれが気になっていた。
ミーナはじっと重なった手を見つめている。その温かさを感じていた。だが、突然、目の前が真っ暗になった。
「おい、ミーナ」
フレドリックが自分の名を呼んだような気がした。
「ちっ。オーバーフローか」
舌打ちをして、フレドリックはミーナの身体を抱き上げた。ソファへと運び、そこに寝かせる。やり過ぎたかもしれない。
とりあえず、本でも読むか、とフレドリックは思った。
だが、その読書の時間もほんの数十分で破られることになった。
「お前たち、さっきからそこで何をしている。入ってきたらどうだ」
フレドリックのその言葉で扉が開いた。
「いや、邪魔しちゃ悪いと思ってな」
頭をかきながら、部屋に入ってきたのはトファー。
「まったく、トファーが部屋に入れないと言って困っていたからな」
エドアルドまでいる。
「それで、なんでそんな状況になっているんだ?」
向かい側のソファにエドアルドは腰をおろした。隣にトファーも座る。
「そんな状況?」
エドアルドの言うそんな状況が、フレドリックには理解ができなかった。
「まあ、詳しく言うとだな。なぜミーナがお前の膝の上で寝ているのかっていうことだ」
ミーナの頭はソファに座っているフレドリックの膝の上にあった。そして、フレドリックはその左手でミーナの頭を撫でながら、右手で器用に本を読んでいた。
「倒れたからだな」
「押し倒したのか?」
トファーがちょっと腰を浮かした。
「お前、言葉の使い方を間違っているぞ? 倒したのではない、倒れたのだ」
「なぜ?」
すかさずエドアルドが理由を尋ねる。フレドリックは大きく息を吐いた。読みかけの本を閉じて、テーブルの上に置こうと思ったのだが、動くとミーナが起きてしまうかもしれないと思って、それをやめた。仕方ないので、自分とソファの間のほんの少しの隙間にそれを押し込める。
「私の魔力を注いだら倒れた」
「魔力を注いだ?」
「ああ、こいつは魔力を吸収する力があるらしい。どこまで吸収するのか試してみた」
「そうしたら、倒れたってことか?」
「そうだ。どうやら吸収できる量を超えたらしい」
「フレド、お前な」
エドアルドは左手で頭を支えた。「そういう、人体実験みたいなことはやめろよ」
「人体実験ではない、実力を確認しただけだ」
そこでフレドリックはまたミーナの頭を撫でる。
「それで、さっきからそれは何をしているんだ?」
トファーが恐る恐る指をさした。フレドリックがミーナの頭を撫でるという行為が不気味だ。
「注ぎ過ぎた魔力を吸い出しているだけだ。このまま体内に魔力をとどめたままでは危ないからな」
「危ないって、どんな風に?」
エドアルドは尋ねた。騎士団から預かっている魔導騎士だ。
「魔力に侵されて、間違いなく死ぬな」
「おい、フレド」
トファーは立ち上がった。「ミーナは騎士団の団員だからな。魔導士団は預けているだけだ。正式な所属は騎士団であることを覚えておけ」
「何をそんなに怒っている? 死んではいないのだから、問題はないだろう」
「フレド」そこでエドアルドが口を挟む。「死ななかったからよいという問題ではない。死ぬような行為を行ったということが問題だ」
「まさか。私がこれを殺すわけがないだろう。こんな面白いものを」
そう言いながらも、ミーナの頭を撫でている仕草は優しい。その頭がもぞりと動いた。
「気が付いたか」
ミーナのそれにすぐに気づいたのもフレドリック。
「あ、あの」
目を開けるとフレドリックの顔が目の前にあった。彼の顔を下から見上げる形になっている。この状況がよくわからない。
「気分はどうだい?」
「え、団長まで?」
ミーナは声が聞こえた方に顔を向ける。
「あ、トファーさままで」
一体、何がどうなっているのか。自分が寝ている、ということはその視界的情報から判断できた。だが、どこで寝ているのか。
ゆっくりと身体を起こそうとすると、フレドリックが右側を支えてくれた。頭が重いかもしれない。ソファの背もたれにゆっくりと寄り掛かった。
「あの、よく覚えていないのですが」
こめかみをおさえる。「また、何か失礼なことを?」
このメンバーを見てそう思ったのだろう。
「あー。大丈夫、君は何もしてないから。どちらかというと、悪いのはフレド」
エドアルドがひらひらと手を振ってこたえた。ミーナはフレドリックに顔を向ける。彼は表情を変えない。
「あ、すいません。お茶も出さずに」
言うと、ミーナはゆっくりと立ち上がった。
「お食事はどうなさいますか?」
テーブルに並べられたパンと果物を見て「これは、お前が作ったのか」と確認してきた。
「あ、はい」
「そうか」
フレドリックが椅子を引いて、そこに座った。「お前は食べたのか?」
「いえ、まだです」
「だったら、一緒に食え」
「では、お飲み物の準備をいたしますね」
ミーナはフレドリックが準備した食事を食べてくれる、ということが嬉しかった。エドアルドから聞いた話によると、フレドリックは誰が作ったかわからないものは食べない、ということだった。だから、あのドラゴン討伐のときに寄った食堂で、飲み物しか口にしていなかったんだな、と思った。
「お前は料理もできるのか?」
食べながら、フレドリックが聞いてきた。
「あ、はい。簡単なものでしたら作れます。ずっと孤児院にいましたので」
「孤児院? 親は?」
「知りません。気付いたら、孤児院にいましたので」
「そうか。悪かった」
「あの、ええと。気にしないでください」
「今日は何をしていた?」
「え」
「私が寝ていた間だ。そのときからここに来ていたのだろう」
「あ、はい。片付けを少々」
「片付け? だから、部屋が歩きやすかったのか」
あれだけ散らかっていたものを片付けたのに、歩きやすかったという表現をするのがフレドリックらしい、と言えばらしい。笑いがこぼれそうになったので、ミーナは左手で口元を押さえた。
「どうかしたか?」
それを目ざとくフレドリックが見つける。
「いえ、何も」
少し、フレドリックと打ち解けたような気がする。多分。
食事を終えると、ミーナが片づけをする。フレドリックは自分の席に座って、分厚い何かの本を読み始めた。
ミーナはお茶を淹れて、そっと机の上に置いた。フレドリックはそれに気付いたのか気付かないのか、何も言わずに手にとり、そして何事も無かったかのようにそれを飲んで、また机の上に置く。それがあまりにも自然で、以前にも誰かがそのようなことをしていたのか、と疑いたくなるほど。
「あの、オリンさま。読書中のところ、申し訳ございません」
本当は声をかけたくなかったのだが。「私は、何をしたらよろしいでしょうか」
フレドリックは、また自然にお茶を手にして一口飲んでから。
「そうか、今日はお前がいたのか」
「はい。今日からずっといます」
「ずっと?」
「はい、多分」
「多分?」
「多分です。もしかしたら、騎士団のほうに戻るかもしれませんが」
「そうか。そうなったら、それはそれで困るな」
フレドリックは立ち上がった。そして、ぐるっと机をの周りを歩いてきて、ミーナの前に立った。
「手を出せ」
言われ、今持っていたお盆を右の脇に挟んで両手の平を上にして差し出した。
「これは邪魔だな」
彼女の小脇にあったお盆をすっと抜いて、机の上に置いた。そして、ミーナの両手に自分の手を重ねる。
何をされているかはわからない。だけど、手の平が少し温かさを感じる。
「やっぱり、面白いな」
フレドリックはミーナに魔力を注いでみた。彼女はその魔力を吸収する力を持っている。だが、本人は気付いていない。どこまで魔力を吸収するのか。フレドリックはそれが気になっていた。
ミーナはじっと重なった手を見つめている。その温かさを感じていた。だが、突然、目の前が真っ暗になった。
「おい、ミーナ」
フレドリックが自分の名を呼んだような気がした。
「ちっ。オーバーフローか」
舌打ちをして、フレドリックはミーナの身体を抱き上げた。ソファへと運び、そこに寝かせる。やり過ぎたかもしれない。
とりあえず、本でも読むか、とフレドリックは思った。
だが、その読書の時間もほんの数十分で破られることになった。
「お前たち、さっきからそこで何をしている。入ってきたらどうだ」
フレドリックのその言葉で扉が開いた。
「いや、邪魔しちゃ悪いと思ってな」
頭をかきながら、部屋に入ってきたのはトファー。
「まったく、トファーが部屋に入れないと言って困っていたからな」
エドアルドまでいる。
「それで、なんでそんな状況になっているんだ?」
向かい側のソファにエドアルドは腰をおろした。隣にトファーも座る。
「そんな状況?」
エドアルドの言うそんな状況が、フレドリックには理解ができなかった。
「まあ、詳しく言うとだな。なぜミーナがお前の膝の上で寝ているのかっていうことだ」
ミーナの頭はソファに座っているフレドリックの膝の上にあった。そして、フレドリックはその左手でミーナの頭を撫でながら、右手で器用に本を読んでいた。
「倒れたからだな」
「押し倒したのか?」
トファーがちょっと腰を浮かした。
「お前、言葉の使い方を間違っているぞ? 倒したのではない、倒れたのだ」
「なぜ?」
すかさずエドアルドが理由を尋ねる。フレドリックは大きく息を吐いた。読みかけの本を閉じて、テーブルの上に置こうと思ったのだが、動くとミーナが起きてしまうかもしれないと思って、それをやめた。仕方ないので、自分とソファの間のほんの少しの隙間にそれを押し込める。
「私の魔力を注いだら倒れた」
「魔力を注いだ?」
「ああ、こいつは魔力を吸収する力があるらしい。どこまで吸収するのか試してみた」
「そうしたら、倒れたってことか?」
「そうだ。どうやら吸収できる量を超えたらしい」
「フレド、お前な」
エドアルドは左手で頭を支えた。「そういう、人体実験みたいなことはやめろよ」
「人体実験ではない、実力を確認しただけだ」
そこでフレドリックはまたミーナの頭を撫でる。
「それで、さっきからそれは何をしているんだ?」
トファーが恐る恐る指をさした。フレドリックがミーナの頭を撫でるという行為が不気味だ。
「注ぎ過ぎた魔力を吸い出しているだけだ。このまま体内に魔力をとどめたままでは危ないからな」
「危ないって、どんな風に?」
エドアルドは尋ねた。騎士団から預かっている魔導騎士だ。
「魔力に侵されて、間違いなく死ぬな」
「おい、フレド」
トファーは立ち上がった。「ミーナは騎士団の団員だからな。魔導士団は預けているだけだ。正式な所属は騎士団であることを覚えておけ」
「何をそんなに怒っている? 死んではいないのだから、問題はないだろう」
「フレド」そこでエドアルドが口を挟む。「死ななかったからよいという問題ではない。死ぬような行為を行ったということが問題だ」
「まさか。私がこれを殺すわけがないだろう。こんな面白いものを」
そう言いながらも、ミーナの頭を撫でている仕草は優しい。その頭がもぞりと動いた。
「気が付いたか」
ミーナのそれにすぐに気づいたのもフレドリック。
「あ、あの」
目を開けるとフレドリックの顔が目の前にあった。彼の顔を下から見上げる形になっている。この状況がよくわからない。
「気分はどうだい?」
「え、団長まで?」
ミーナは声が聞こえた方に顔を向ける。
「あ、トファーさままで」
一体、何がどうなっているのか。自分が寝ている、ということはその視界的情報から判断できた。だが、どこで寝ているのか。
ゆっくりと身体を起こそうとすると、フレドリックが右側を支えてくれた。頭が重いかもしれない。ソファの背もたれにゆっくりと寄り掛かった。
「あの、よく覚えていないのですが」
こめかみをおさえる。「また、何か失礼なことを?」
このメンバーを見てそう思ったのだろう。
「あー。大丈夫、君は何もしてないから。どちらかというと、悪いのはフレド」
エドアルドがひらひらと手を振ってこたえた。ミーナはフレドリックに顔を向ける。彼は表情を変えない。
「あ、すいません。お茶も出さずに」
言うと、ミーナはゆっくりと立ち上がった。