【電子書籍化】どうやら魔導士さまたちに興味を持たれてしまったようです
「いいよいいよ、そんなに気を遣わなくて」
「こいつらもそう言ってるんだから、わざわざ出さなくてもいい」
フレドリックは腕を組む。
「では、オリンさま。お茶は私が飲みたいから淹れます。それのついでです。それでしたら、何もわざわざではないですよね。ついで、ですから」
「まあ、ついでならいい」
エドアルドは二人のやり取りをみていたが、あのフレドリックがミーナに言いくるめられているという状況が面白かった。彼らがいなかったら大笑いしたいところだ。お腹が苦しくて、トファーの方に視線を向けると、どうやら彼も同じように思っているらしい。笑いをこらえようと肩を震わせている状況がよくわかる。
カシャンと音がした。どうやらミーナがバランスを崩して、テーブルに手をついたようだ。
「おい」
「すいません、ちょっと目の前が暗くなって」
「いい、私がやる」
「オリンさま、お茶を煎れることができるのですか?」
とうとう、エドアルドとトファーが吹き出した。そんな二人をジロリと睨みつけながら、フレドリックはミーナよりティーポットを奪い取った。
乱暴に茶を淹れると、乱暴に二人の目の前に置いた。乱暴に置いたために、数滴お茶がこぼれた。
「茶だ。それでも飲んだらさっさと帰れ」
「酷いな。また何も用事が済んでいない」
エドアルドはカップを手にした。せっかくフレドリックが淹れてくれたのだから、飲まないと罰が当たるというものだ。
「うん、まずいな」
「だったら飲むな」
「お茶菓子もどうぞ」
「こいつらに茶菓子も出す必要などない。もう帰るんだからな」
「では、私がいただきますね」
ミーナはフレドリックの隣に座りながら、ニッコリと微笑んだ。
エドアルドはまずい茶をすすりながら、半日、むしろフレドリックが起きてきてからだと数時間だろう、しか一緒にいないはずなのに、この二人の距離の近さが気になっていた。かなり、気を許している。フレドリックが。
「それで、団長とトファーさまはどのようなご用件ですか?」
「そうだそうだ。あまりにも面白くてつい忘れてしまった」
トファーは腰ベルトに挟んでいたそれをテーブルの上においた。「ほらよ、ドラゴンの角。お前、欲しがっていただろう?」
「あ、ドラゴンの角!! あのときの、レッドドラゴンの角ですよね?」
ミーナはそれを手に取り、縦から横から斜めからと角を眺めている。「ものすごく程度がいいじゃないですか。お宝ですよ、これ」
「うん。そう思っているのはお前だけだから、遠慮なくもらってくれ」
「では、遠慮なくいただきます」
「ああ」
トファーは口元を手で押さえた。
「トファーさま。どうかされましたか? そんなにオリンさまのお茶がまずかったのですか?」
ジロリとフレドリックが睨んだ。
「いや、違う。お前はお前だって思ったら、ちょっと嬉しくなった」
「何を言ってるんですか、私は私ですよ」
ミーナはドラゴンの角を大事そうに、隣に置いた。フレドリックとの間に。
「これは、何に使うんだ?」
その角をフレドリックが手にする。同じように縦横斜めからそれを見る。
「はい、魔導武器を作るのです」
「魔導武器? お前は魔導武器も作ることができるのか?」
「はい」
「なんだよ、フレド。お前、知らないでこいつを預かったのか? ミーナは魔導騎士でありながら魔導武具師だぞ?」
「そうなのか?」
ミーナは頷く。
「だが、お前が作った魔導武具はお前しか使えないのではないか?」
「そうなんです」
ミーナはいきなり両手でフレドリックのその右手をとった。「ですから、オリンさまに魔法付与について教えていただきたいのです」
ミーナがぐいぐい迫ってくるものだから、フレドリックはちょっと下がる。だが、ソファに座っているから思ったよりも下がれない。このままではミーナに襲われそうな勢い。
「ミーナ。フレドが引いてる」お茶をすすりながら、トファーが言った。「相変わらず、まずいな。冷めたから、余計にまずい」
「あ。お茶を淹れますね」
ミーナは立ち上がり、お替わりのお茶を淹れた。
「うん。こっちは美味いな」
エドアルドが満足そうに頷いた。
「そういえば、団長。トファー様に、私のことは伝えてくださったのですか?」
「ああ、明日からの訓練のことだろう? 言った」
「聞いた。ミーナならいつでも大歓迎だ」
「ありがとうございます」
なんのことだ? とフレドリックはミーナに視線を向ける。
「あ、はい。騎士団の訓練の方に混ぜていただこうと思いまして」
ピクリとフレドリックの眉が動いた。面白いことになるぞ、とエドアルドは思った。
「騎士団に戻るのか?」
「いえ、そういうわけではございません」
「だったら、なぜ騎士団に混ざる?」
「えっと」
ミーナはものすごく言いづらい。フレドリックがお昼前まで寝ているせいで暇だから、とは言えない。
「お前が昼前まで寝ているからだよ。ミーナだって魔導士団にきたばかりなんだから、一人で何をやったらいいかわからないだろ?」
エドアルドが言った。
「だったら、他の魔導士で面倒をみればいいだろう?」
「それが面倒だから、お前に任せたんだろ?」
「だったら、お前がみたらいいじゃないか」
「だから、おれがみれないからお前に任せたんだ」
「ということのようですので、お世話になります。トファーさま」
ミーナは頭をペコリと下げた。
「お前が訓練に混ざってくれると、こっちも助かるから、全然問題ない。むしろ今日の訓練なんか、覇気がなかったくらいだな」
トファーはお茶をすすった。「お。こっちは美味いな。で。お前は今日、何をしてたんだ?」
「えっと。掃除、ですかね? あとはお昼ご飯の準備を少々」
顎の下に右手を添えて、顔を傾けた。
「おいおい、エド。ミーナを雑用のために預けたわけじゃないぞ?」
「まあ、掃除は必要だろ? 今、俺たちがこうやってここに座っていられるのも彼女のおかげだ」
エドアルドはふふんと鼻で笑いながら、お茶をすすった。「うん、やっぱりこっちは美味いな」
ふん、とトファーは腕を組んで足を組んだ。
「で、用事が済んだなら、とっとと帰ったらどうだ?」
フレドリックが低い声で言った。「そろそろ私も研究に戻りたいのだが」
「相変わらず冷たい野郎だな」
トファーが立ち上がった。「ミーナ、明日から訓練に混ざれよ。時間はいつも通り。場所もいつも通り」
ミーナも立ち上がり「承知いたしました」
トファーの背中を見送る。
「じゃ、俺も戻るか。ミーナ、悪いが後で書類を取りに来て欲しい」
「ついでに持ってきたらよかったのではないか?」
「トファーがあまりにも慌てていたからね。忘れた」
エドアルドもすっと立ち上がった。「じゃ、ミーナ。悪いけどフレドのことは頼んだよ」
ひらひらと肩越しに手を振る。
「はい」
ミーナは返事をした。
エドアルドの背中も見送った後、ミーナはテーブルの上を片付ける。
「オリンさまはもう少しお茶を飲まれますか?」
そう尋ねただけなのに、ジロリと睨まれてしまった。何か気に障るようなことをしてしまったのだろうか。
「お前は、騎士団に戻りたいのか?」
「へ?」
と、本当に口の形をへにしてしまった。しかもテーブルを片付けようとしていたので、中腰の変な恰好。
「そうですね。私、魔力が弱いですから。ずっと魔導士団というわけにはいかないと思うのです。いずれは騎士団に戻ることになるのかと思っているのですが」
「まあ、そうだな。正式な所属は騎士団になっているからな。私が聞きたかったのは、今すぐに騎士団に戻りたいのか、ということだ」
「今すぐ、ですか?」
中腰のまま考える。「まだオリンさまから何も教えていただいておりませんので、今すぐということはあり得ないですね」
今すぐ騎士団に戻ったら、今日この部屋を掃除しただけ損だし、何よりも前回のドラゴン討伐時の扱いが大損だ。
「そうか」
フレドリックは呟くと、読みかけの本を手にした。「お茶を淹れてもらえるか?」
「はい」
ミーナは元気よく返事をしてテーブルの上を片付け、フレドリックのためにお茶を淹れた。
「こいつらもそう言ってるんだから、わざわざ出さなくてもいい」
フレドリックは腕を組む。
「では、オリンさま。お茶は私が飲みたいから淹れます。それのついでです。それでしたら、何もわざわざではないですよね。ついで、ですから」
「まあ、ついでならいい」
エドアルドは二人のやり取りをみていたが、あのフレドリックがミーナに言いくるめられているという状況が面白かった。彼らがいなかったら大笑いしたいところだ。お腹が苦しくて、トファーの方に視線を向けると、どうやら彼も同じように思っているらしい。笑いをこらえようと肩を震わせている状況がよくわかる。
カシャンと音がした。どうやらミーナがバランスを崩して、テーブルに手をついたようだ。
「おい」
「すいません、ちょっと目の前が暗くなって」
「いい、私がやる」
「オリンさま、お茶を煎れることができるのですか?」
とうとう、エドアルドとトファーが吹き出した。そんな二人をジロリと睨みつけながら、フレドリックはミーナよりティーポットを奪い取った。
乱暴に茶を淹れると、乱暴に二人の目の前に置いた。乱暴に置いたために、数滴お茶がこぼれた。
「茶だ。それでも飲んだらさっさと帰れ」
「酷いな。また何も用事が済んでいない」
エドアルドはカップを手にした。せっかくフレドリックが淹れてくれたのだから、飲まないと罰が当たるというものだ。
「うん、まずいな」
「だったら飲むな」
「お茶菓子もどうぞ」
「こいつらに茶菓子も出す必要などない。もう帰るんだからな」
「では、私がいただきますね」
ミーナはフレドリックの隣に座りながら、ニッコリと微笑んだ。
エドアルドはまずい茶をすすりながら、半日、むしろフレドリックが起きてきてからだと数時間だろう、しか一緒にいないはずなのに、この二人の距離の近さが気になっていた。かなり、気を許している。フレドリックが。
「それで、団長とトファーさまはどのようなご用件ですか?」
「そうだそうだ。あまりにも面白くてつい忘れてしまった」
トファーは腰ベルトに挟んでいたそれをテーブルの上においた。「ほらよ、ドラゴンの角。お前、欲しがっていただろう?」
「あ、ドラゴンの角!! あのときの、レッドドラゴンの角ですよね?」
ミーナはそれを手に取り、縦から横から斜めからと角を眺めている。「ものすごく程度がいいじゃないですか。お宝ですよ、これ」
「うん。そう思っているのはお前だけだから、遠慮なくもらってくれ」
「では、遠慮なくいただきます」
「ああ」
トファーは口元を手で押さえた。
「トファーさま。どうかされましたか? そんなにオリンさまのお茶がまずかったのですか?」
ジロリとフレドリックが睨んだ。
「いや、違う。お前はお前だって思ったら、ちょっと嬉しくなった」
「何を言ってるんですか、私は私ですよ」
ミーナはドラゴンの角を大事そうに、隣に置いた。フレドリックとの間に。
「これは、何に使うんだ?」
その角をフレドリックが手にする。同じように縦横斜めからそれを見る。
「はい、魔導武器を作るのです」
「魔導武器? お前は魔導武器も作ることができるのか?」
「はい」
「なんだよ、フレド。お前、知らないでこいつを預かったのか? ミーナは魔導騎士でありながら魔導武具師だぞ?」
「そうなのか?」
ミーナは頷く。
「だが、お前が作った魔導武具はお前しか使えないのではないか?」
「そうなんです」
ミーナはいきなり両手でフレドリックのその右手をとった。「ですから、オリンさまに魔法付与について教えていただきたいのです」
ミーナがぐいぐい迫ってくるものだから、フレドリックはちょっと下がる。だが、ソファに座っているから思ったよりも下がれない。このままではミーナに襲われそうな勢い。
「ミーナ。フレドが引いてる」お茶をすすりながら、トファーが言った。「相変わらず、まずいな。冷めたから、余計にまずい」
「あ。お茶を淹れますね」
ミーナは立ち上がり、お替わりのお茶を淹れた。
「うん。こっちは美味いな」
エドアルドが満足そうに頷いた。
「そういえば、団長。トファー様に、私のことは伝えてくださったのですか?」
「ああ、明日からの訓練のことだろう? 言った」
「聞いた。ミーナならいつでも大歓迎だ」
「ありがとうございます」
なんのことだ? とフレドリックはミーナに視線を向ける。
「あ、はい。騎士団の訓練の方に混ぜていただこうと思いまして」
ピクリとフレドリックの眉が動いた。面白いことになるぞ、とエドアルドは思った。
「騎士団に戻るのか?」
「いえ、そういうわけではございません」
「だったら、なぜ騎士団に混ざる?」
「えっと」
ミーナはものすごく言いづらい。フレドリックがお昼前まで寝ているせいで暇だから、とは言えない。
「お前が昼前まで寝ているからだよ。ミーナだって魔導士団にきたばかりなんだから、一人で何をやったらいいかわからないだろ?」
エドアルドが言った。
「だったら、他の魔導士で面倒をみればいいだろう?」
「それが面倒だから、お前に任せたんだろ?」
「だったら、お前がみたらいいじゃないか」
「だから、おれがみれないからお前に任せたんだ」
「ということのようですので、お世話になります。トファーさま」
ミーナは頭をペコリと下げた。
「お前が訓練に混ざってくれると、こっちも助かるから、全然問題ない。むしろ今日の訓練なんか、覇気がなかったくらいだな」
トファーはお茶をすすった。「お。こっちは美味いな。で。お前は今日、何をしてたんだ?」
「えっと。掃除、ですかね? あとはお昼ご飯の準備を少々」
顎の下に右手を添えて、顔を傾けた。
「おいおい、エド。ミーナを雑用のために預けたわけじゃないぞ?」
「まあ、掃除は必要だろ? 今、俺たちがこうやってここに座っていられるのも彼女のおかげだ」
エドアルドはふふんと鼻で笑いながら、お茶をすすった。「うん、やっぱりこっちは美味いな」
ふん、とトファーは腕を組んで足を組んだ。
「で、用事が済んだなら、とっとと帰ったらどうだ?」
フレドリックが低い声で言った。「そろそろ私も研究に戻りたいのだが」
「相変わらず冷たい野郎だな」
トファーが立ち上がった。「ミーナ、明日から訓練に混ざれよ。時間はいつも通り。場所もいつも通り」
ミーナも立ち上がり「承知いたしました」
トファーの背中を見送る。
「じゃ、俺も戻るか。ミーナ、悪いが後で書類を取りに来て欲しい」
「ついでに持ってきたらよかったのではないか?」
「トファーがあまりにも慌てていたからね。忘れた」
エドアルドもすっと立ち上がった。「じゃ、ミーナ。悪いけどフレドのことは頼んだよ」
ひらひらと肩越しに手を振る。
「はい」
ミーナは返事をした。
エドアルドの背中も見送った後、ミーナはテーブルの上を片付ける。
「オリンさまはもう少しお茶を飲まれますか?」
そう尋ねただけなのに、ジロリと睨まれてしまった。何か気に障るようなことをしてしまったのだろうか。
「お前は、騎士団に戻りたいのか?」
「へ?」
と、本当に口の形をへにしてしまった。しかもテーブルを片付けようとしていたので、中腰の変な恰好。
「そうですね。私、魔力が弱いですから。ずっと魔導士団というわけにはいかないと思うのです。いずれは騎士団に戻ることになるのかと思っているのですが」
「まあ、そうだな。正式な所属は騎士団になっているからな。私が聞きたかったのは、今すぐに騎士団に戻りたいのか、ということだ」
「今すぐ、ですか?」
中腰のまま考える。「まだオリンさまから何も教えていただいておりませんので、今すぐということはあり得ないですね」
今すぐ騎士団に戻ったら、今日この部屋を掃除しただけ損だし、何よりも前回のドラゴン討伐時の扱いが大損だ。
「そうか」
フレドリックは呟くと、読みかけの本を手にした。「お茶を淹れてもらえるか?」
「はい」
ミーナは元気よく返事をしてテーブルの上を片付け、フレドリックのためにお茶を淹れた。