冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
恥ずかしさと照れのあまり、カチーンッ!と固まったわたしを見た老女はクスクス可笑しそうに笑った。
「あらあら。坊っちゃまの奥様になられたのだから慣れて下さいね?」
「は、はい…」
何だか窘(たしなめ)られた感じがしてシュンとなってしまう。
「…千聖ちゃん」
「え、」
不意に名を呼ばれパッと顔を上げると、老女は変わらず笑顔のまま
「…ふたりきりの時は、そう呼びましょうか?」
そう提案してくれて、わたしは「是非っ!」とお願いした。
老女の名は「まり子」と言うらしく、ここで長年家政婦をしているのだそうだ。
住み込みではないから夜は安心して坊っちゃまと過ごしてくれと言われた時はその意味を理解して顔が真っ赤になってしまい、また可笑しそうに笑われたけど、良い人そうで良かったと胸を撫で下ろした。