冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
「荷解き、手伝ってやれなくてすまない。仕事が立て込んでいてな…」
「大丈夫です、荷物少ないですからもうすぐ終わります。…室井さんのご職業って…」
「…」
聞けば何だか気まずい沈黙。
あれ、わたしもしかして聞いちゃいけないこと聞いちゃった?
「あっ、あの、わたしに変なこと聞いちゃっ…」
「…作家だ」
ぼそりと、そして何故かバツが悪そうに室井さんは答えた。
そして、読んでいた新聞をバサっと閉じると「夕飯は18時だ」とだけ言ってリビングから出て行ってしまった。
読みかけだった新聞。飲みかけのアップルティー。
なんだか、泣きたくなった。
「千聖ちゃん。違うのよ」
涙が今にも溢れそうになっていると、まり子さんが室井さんが居た所とは逆隣に腰かけて、
「坊っちゃまは、嫌だったんじゃないの。恥ずかしかったのよ」
そう言いながらわたしの背中を優しくさすってくれた。
「…恥ずかしい?」
「ええ」
「なんで作家が恥ずかしいんですか?」
「それは、坊っちゃまがいずれお話ししてくださると思うから今はまだナイショ」
まり子さんのフォローで溢れそうだった涙は引っ込んだけど、謎が残ったなぁ。
「さぁさ!お片付け、もう一踏ん張りしてきましょっ。わたしも手伝うわ!」
そうして、まり子さんが手伝ってくれたお陰でわたしの荷物はあっという間に片付いて、そのお礼にと今度はわたしがまり子さんの夕飯のお手伝いをした。
おばあちゃんともこんな風にいろんな事を一緒にしたなぁと、少し泣けたのは内緒。