冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
…まり子さんが居てくれて本当に良かったとしみじみ思う。
まり子さんと言う存在がなかったらわたしは現時点でもうここには居ないと思うから。
愛のない結婚。
けれど、あんなに丁寧に選んでくれた結婚指輪に何処か期待してしまっていたのかも知れない。
愛してもらえるのかも知れないと。
でも、現時点では愛云々以前の問題だった。
後片付けを終えたまり子さんは帰り支度を始めた。
ーー住み込みではないって言ってたもんな…。
寂しさと心細さのあまり俯いていると、そんなわたしに気付いたまり子さんがその小さな体でわたしをふわりと抱きしめると
「大丈夫。貴女ならきっとーー、」
「え?」
最後の言葉が聞き取れず、聞き返そうとしたけれど
「また明日。お休みなさい」
と、手を振りながら帰ってしまった…。
何が大丈夫なの?貴女ならきっとって…
「まり子さん、帰ったのか?」
「わぁっ!」
突然背後から低い声が降ってきて驚きのあまり叫んでしまった。
「…」
「ご、ごめんなさい…」
謝りながら振り返ればネイビーの光沢のあるパジャマを身に纏った室井さんが仏頂面で立っていて、
「キミも風呂に入って来なさい」
少しだけだけど、威圧感のある言い方だったものだから…
「はい、すみません」
なんか謝ってしまった。