冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
2.
ーー
ーーーーチュン…チュンッ
鳥の囀(さえず)りが心地よく耳に入ってきて、意識がゆっくりと覚醒してゆく。
うっすらと開けた双眸(そうぼう)には、やわらかな朝日が。
「…朝かぁ。」
ぼんやりと呟いた自身の言葉に衝撃を受けて勢いよく上半身を起こす。
「うそっ!朝っ!?」
慌てて辺りを見渡すが、ここは紛(まご)う事なきわたしにあてがられた部屋で。
次に体を確認するが、何の乱れもなくキッチリとピンクの小さなハートが散りばめられたパジャマを身につけており脱がされた形跡はひとつもない。
そもそもこの部屋にはわたししかいない。
サーッとみるみる顔から血の気が引いてゆく。
初夜だったのに、寝落ちするだなんてっ!!
室井さん、絶対怒ってるよね…。
…わたしはどうしてこうなんだろう。
ズドーンっと落ちていると軽く部屋のドアをノックする音が聞こえ、入ってきたのはまり子さん。
「千聖ちゃん、おはよう。よく眠れたみたいで良かった」
ニッコリと笑うまり子さんに思わず泣きつく。
「まり子さんっ!どうしよう、わたし昨夜この自分の部屋で爆睡しちゃったみたいで、昨日は、その、しょ、初夜…だったのに…っ」
「あらあら、そんな事気にしていたの?初夜なんて今の時代そこまで重きを置かない物事だと思うわよ。それに、あの坊っちゃまが夫婦になったからと言ってそうやすやすと…」
「…え?」
「何でもないわ。それより朝ごはん食べましょうか。坊っちゃまももう下に降りて待っていらっしゃるわ」
え!と、慌てて時刻を確認するとちょうど8時をまわったところで。
室井さんは毎朝6時に起きて7時に朝食をとるのだと、昨日夕飯の時間を告げたついでに教えてもらったのに。
わたしは寝癖も着替えもそのままにリビングへと急いだ。