冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。

「っっ!?なぜ泣くんだ!?」

「え?…あ、すみません。なんか感動して…」

気付いたらボロボロ涙が溢れていた。

「…キミは大事な「妻」だからな」

フンッと耳を赤らめながらそう言ってくれた。

そう、わたしは室井さんの妻。

けれど、わたしはあくまで契約上の妻。

契約社員とシステムはあまり変わらない。

用が済んだら容赦なく切り捨てられる。

それでもーー、

「そうだ。いい加減「室井さん」呼びはやめてくれ。夫婦らしくない」

「それならわたしを「キミ」と呼ぶのも夫婦らしくないのでやめていただきますか?仁さん」

「…っっ!!わ、わかった。ち、千聖、」

それでもいいから、今はこの不器用な優しさを持つこの人と捨てられるその日まで夫婦でいたい。

まだこの今まで感じたことのないふわふわした温かい気持ちを抱いていたい。

そう願うことを、どうか許してください。

車内には、流行りの歌ではなくリラックス効果があるからとヒーリング音楽が清らかに流れ、会話らしい会話はなかったけれど、わたしは穏やかな気持ちで目的地の実家に着くまで爆睡してしまったのだった…。

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