冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
「…と、ちさと、千聖っ!起きろっ!」
「ひゃい…」
誰かに名前を呼ばれて、完全に寝ぼけていたわたしの口から変な言葉が出てしまった。
「仁しゃん、」
寝起きの為に呂律がまわらないわたしに仁さんは呆れ気味に溜め息を吐いた。
「寝ぼけている場合じゃないぞ。もう実家のすぐ近くまで来たぞ」
「…えっ!?わたし、寝ちゃって…っ!?」
「それはそれは盛大なイビキと歯ぎしりをしながら眠っていたぞ」
ククッと喉を鳴らす仁さん。
イビキに歯ぎしり!?
ショック過ぎる…。
「まぁ、これから夫の実家へ初めて行くって時に爆睡出来る度胸は褒めるべきか」
「それ、本当に褒めてます?」
「さぁな」
「あれ?ここってコンビニですか?」
「あぁ。爆睡したままのキミをそのまま実家に連れて行くのはどうかと思って、実家から一番近いコンビニに寄った。トイレに行くなり化粧を直すなりしたいだろうと思ってな」
この天才的な気遣い…
「…仁さん、今まで何人の女の人泣かしてきたんですか」
「…は?」
「トイレは大丈夫なので、ここでメイク直しちゃいますね。すぐに終わるので」
メイクを直している間中、仁さんは「誤解をするなっ!」と珍しくあわてて弁解していたけれど、顔もスタイルも良くて背も高い優しい大人の男がモテない筈ないじゃない。
なんだろう。なんだかモヤモヤする。
「メイク直したので、行きましょうか」
これが「やきもち」という感情だと知るのはもう少し後でのことーー。