冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
「あらあら、2人とも遠慮なく座って?いまお昼ごはん用意するから。お父さんもそんな表情(かお)してないで、手伝ってちょうだいっ」
普段のペースを取り戻したであろうお義母さんが、テキパキと動いてくれて救われた…。
お義父さん…
わたしからしたら亡くなったおじいちゃんと同じぐらいの年齢だな。おばあちゃんも、お義母さんぐらいの歳だった。
ぐっとくる感情を無理やり心に押し込んで、わたしは座らずにお義母さんの後についていって、
「お義母さん、お手伝いしますっ」
近くで言えばお義母さんはビックリして、
「えっ!いいのいいの、貴女はお客様なんだから」
と、微笑んでくれた。
「お客様」かぁ。
そりゃそうだよね。仁さんと籍を入れて夫婦にはなったけど、ご両親とわたしは今が初対面だし、付き合うこともなく結婚したわけだからご両親にとってしたらまさに寝耳に水状態よね。
そんなわたしを家族として、娘として接する事なんて出来なくて当たり前なのに。
なのに、なんでこんなに寂しいんだろう…。
わたしにとって「家族」と呼べる人がもう誰もいないせいなのだろうか。
感情がぐるぐるして苦しい。
誰かーーー、
「千聖?」
するとすぐ近くで聞こえた心地良い低音ボイス。
「…仁さん」
「どうした?ボーッとして。緊張しているのか?」
優しく心配してくれるこの人だって、かたちだけの夫婦であって、家族とは呼べない。
「な、なんでもないよっ」
泣きそうなのを笑って誤魔化してわたしはまたお父さんが居る居間に戻った。