冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
すると程なくして、お義母さんの手料理の数々が運ばれて来た。
仁さんも手伝っていた。
それがまた孤独の苦しさを倍増させる。
「…」
ふと視線を感じ、その方へと目をやると
お義父さんがジィッとわたしを見ていた。
見ていた。と言うよりは見抜かれている感じがして、わたしは反射的に目を逸らしてしまった。
「ごめんなさいねぇ、こんな物しか作れなかったの。でも、不味くはない筈だからみんなで食べましょうっ」
目の前にはちらし寿司にお刺身、蟹のお吸い物が並べられた。
「いただきます」
そう言いつつもなかなかタイミングが掴めず手が出せないわたしに気付いた仁さんが積極的にわたしの分を取り分けてくれて。
その姿を見たご両親は、ふたりとも目が飛び出るんじゃないかってぐらいビックリしていた。
そうはなっても何からどう話したらいいのか解らないわたし達は会話もないままただただ黙々と食べ物を口に運んだ。
「ーーおい」
その場の沈黙を破ったのは、お義父さんで。
「お前達、結婚する前になんでうちに来なかったんだ?」
少し怒気を孕んだ声が静まり返った居間に響いた。
「おい。聞いてんのか?仁」
お義父さんは更に詰め寄る。
「あ、あの、それはわたしがーー」
もうダメだと、本当の事を言うしかないと思ったわたしが真実を話そうとした時だった。仁さんがハァとため息をひとつ吐いて、信じられない言葉を口にした。
「出逢った瞬間に俺が千聖に一目惚れして、千聖に頼み込んで弱みにつけこんでその日のうちに籍を入れてもらった。だから挨拶に来る暇もなかった。ーーそれだけだ」
…嘘だって、わかってる。
その場を凌ぐ為だけの言葉だって、わかってるのに。
なのに、なんでこんなに嬉しく思うんだろう。
「お前が…この娘に、一目惚れだと?」
「あぁ、そうだ」
そう仁さんが答えると、お義父さんは俯き、体がプルプルと震え出した。