冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
こ、これは、お、おおおおお怒りになっていらっしゃる…!?
仁さんがわたしに一目惚れとか、さすがに無理があるもんね。
「お、お義父さんっ、実はですね…っ」
今度こそ真実を話す時だと思いお義父さんの方に身を乗り出した。
だけどーー、
「…いいっ!!」
「…は?」
お義父さんはダーッと涙を流しながらお箸を持つ手の親指をぐっと立てた。
「今まで恋人の存在すら口にしなかったお前の口からこんな話しが聞けるなんてよぉ、父ちゃん夢にも思わなかったぞ!なぁ、母さん!」
「ええ、ええ、本当に!母さん、これで安心していつでもあの世に行けるわ」
「ちょっ…!あの、お義父さん、お義母さんっ、」
お義母さんまでホロホロ涙を流し始めて縁起でもないことを言い始めて、わたしはもうどうしたらいいのかわからない。
オロオロするばかりでいたら仁さんが、
「オヤジにオフクロ。好き勝手に言うのは俺たちが帰ってからにしてくれ。千聖が戸惑うだろ」
ピシャリとご両親に言ってくれたから、ふたりとも幾分冷静になってくれたみたい。
…それにしても、仁さんの愛妻家のフリをする言動には脱帽だ。
これじゃあ嫌でも想われてるって錯覚しちゃうよ。