冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
「それにしても仁ったら、こんな若い子ゲットしちゃって…!やるじゃないのっ」
「そうだそうだ!お前もまだまだ隅におけんなっ!わっはっはっ!」
…わたしは仁さんにとってただの契約上の妻なんです。すいません。
わたしは心の中でずっとご両親に謝っていた。
仁さんはご両親の質問攻めが始まっても何でもないような感じで応じている。
そうして、なんだかんだ色んな話しが盛り上がって4時間ぐらい経って、また遊びにくることを約束し、わたしたちはやっと解放されたのだった。
帰り道、空は夕焼けに染まって車のテールランプの光が徐々にキラキラと道を彩り始めた。
それをボンヤリと眺めながら少し息を吐くと、すかさず
「疲れたろう?あんな両親ですまない」
前を向いたまま謝る仁さん。
「あ、いえっ、わたしああいう場面を経験した事なくてそれでっ…!ご両親、とても素敵な方で。お義母さんのお料理もどれも美味しかったし。あ、これ、本音ですからね?」
慌てて説明したのが可笑しかったのか、仁さんはフッと目を細めると、
「キミのお陰で両親共に本当に喜んでくれた。ありがとう」
きっと、仁さんの素直なきもち。
なんだろう。心臓がきゅううとなる。涙で視界が滲む。
わたし、
今までこんなに人に必要とされたことなかった。こんなに人にお礼言われたり、喜んでもらえたこと、なかった。
人に必要とされるって、喜ばれるって、こんなにも幸せなきもちになるんだね。
ーー知らなかった。
「…こちらこそ、幸せな時間を、ありがとうございました」
わたしは、わからなかった。
自分の言葉に、仁さんが酷く驚いたことに。
ひとすじの涙が頬を伝ったことに。
そして、その頬に仁さんの右手が伸びていたことに。
そして、触れるかどうかのところでその手が引っ込んでしまったことにも。
ただただ、今のこの気持ちを忘れたくなくて、気付かなかったんだーー。