冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
「あ、言葉は知ってるんですけど、経験なくて…」
「…キミは、誰かに恋した事、ないのか?」
「ないです」
わたしの思わぬカミングアウトに珍獣を見る目でわたしを凝視してくる仁さん。
「べ、別にっ、恋なんてしなくったって、生きていけるし!」
プイッとそっぽ向けば、仁さんの右手がわたしの顎を優しく指を使って仁さんの方に顔が向くようにしてきた。
「そんなキミに恋する男が居るとしたら、どうする?」
仁さんの整った顔がゆっくりと近付いてきてわたしは慌てて、
「仁さんっ!か、顔近いですっ!!」
「答えて?千聖」
仁さんの色気にやられてわたしはもうタジタジだ。
「そ、そんな人っ、居るわけないですよっ」
「どうしてそう言い切れる」
わたしの顎を支えていた綺麗な指が今度は頬を撫でてくる。
「ど、どうしてって…!」
「ここに、そんな男が居るのに?」
「ーーーえ、」
フッと視界が暗くなったかと思うと、仁さんの唇がわたしのそれにそっと重なり、すぐに離れた。
「…」
いま、何が起きたんだろう。
瞬きさえ忘れて呆然としていると仁さんはニヤリと笑んで、
「千聖の全部は、私がもらう。1度でもキミに触れたら最後、理性を抑える自信がないから今までずっと我慢していたのに。キミがこんなにも可愛く嫉妬して私を煽るのなら、もう我慢はしない」
今度は頬にキスをして、スッと部屋から出て行った。