冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
「片付けてお茶にでもしましょうか。家で焼いてきたアーモンドクッキーがあるからそれも食べましょう」
ニコニコ笑顔のまま、まり子さんはキッチンへと向かって行った。
…まり子さんって、いい人だよなぁとつくづく思う。
けれど、彼女のプライベートはあの仁さんでさえほとんど知らないんだそうだ。
仁さんによれば、ここは元はご両親が建てて暮らしていた家で物心ついた頃にはもうまり子さんはこの家で働いていたと言う。
どんなご縁があって室井家の家政婦となって、ここまで長い間この家と仁さんを守っているのか。
謎だなぁ。
「どうしたの?千聖ちゃん。なにか考え事?」
紅茶とクッキーを持ってきてくれたまり子さんが不思議そうに首を傾げる。
「あっ、ううん!何でもないですっ…」
言葉を吐いて息を吸ったとき、わたしの鼻腔をふわりと匂った、これは…。
「…ミルクティー!!」
「フフッ。当たり。千聖ちゃんお気に入りのアッサムの茶葉を使って煮出したロイヤルミルクティーよ。寒い季節には身体が温まる物を摂りましょうね」
この家に来てから知った、このロイヤルミルクティーの味にもう病み付きになってしまったわたし。
この前、街に買い出しに出かけた時、ペットボトルに入った「ロイヤルミルクティー」と書かれた物を見つけ、いそいそと買って飲んだのだが、あまりの不味さにビックリしてしまった。
何もかもがまり子さんが淹れてくれたミルクティーとは違っていた。
それほどまでに、まり子さんのミルクティーは美味しい。