冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
途端、片腕をクンッと引っ張られそのまま仁さんの腕の中に上半身がスッポリとおさまった。
それだけではなく、わたしを自身の腕の中に閉じ込めた後、首の付け根あたりに顔を埋めて思いっきり匂いを嗅がれる。
こうされるようになったのは確か焼き芋の時から1ヶ月経った頃からだったかな。
仁さん曰く、感情が荒れている時や疲れた時なんかにわたしの匂いを嗅ぐと落ち着くんだそうだ。
臭いと嫌だからやめてと何回かお願いしたが、構わずするので抵抗するのももう諦めてしまった。
「何があったんです?」
聞けばわたしを抱き締める力が少しだけ強くなって、
「…新しいマネジャーがポンコツ過ぎて疲れる」
「あぁ、あの人か」
仁さんは恋愛小説家のなかでもかなりの売れっ子らしくて、忙し過ぎてマネジャーがつくことになったのだが、その人がどうもあまり仕事が出来ないらしく、こうしてマネジャーへのふまんが溜まったり、マネジャーと行動が一緒の日が続いたりすると毎回ヘロヘロになって帰ってくる。
しかもそのマネジャー、仁さんのマネジャーになった挨拶をしなければと言う理由で、禁断のこの地へアポなしで足を踏み入れてしまったのだ。
激怒した仁さんは挨拶もまだしてないマネジャーをペッと敷地内から追い出し、出版社に1時間に渡るクレームをつけた。という出来事があって。
それ以来マネジャーが家に訪ねてくる事はなくなったけど、会社で打ち合わせの時は必ずこうしてぐったり疲れて帰って来るのだ。