冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
「お疲れ様でした」
仁さんの背中に手をまわすと今度は力の抜けたため息を吐きながら、
「ありがとう」
と呟いてそっとわたしから離れた。
すると、パチっと交わった視線。
仁さんは少しずつわたしに顔を近付けてくる。
「っ、」
キス、される…!
あの日から毎日キスを交わすようになったのだけど、わたしはまだまだ慣れなくて、ちょっと怖い感じもある。
けれど、仁さんとキスするようになってから
また気持ちが変なのだ。
だいたいキスは1日2〜3回だし、それだけも心も体もいっぱいいっぱいの筈なのに「もっと、」と思ってしまっている自分もいて。
身の丈に合っていない強欲さに自分で自分の事呆れるぐらいだ。
今もまた、そっと触れるだけのキスだった。
怖くもあるのに「もっと」なんて、わたし一体なに考えているのっ。
「千聖?どうした?」
心の中で自分を律していると、仁さんが心配そうにわたしの顔を覗き込んできた。
そういう動作にもいちいち心臓がバクバクしてしまう。
「な、なんでも…っ」
そろそろ解放してくれないと身も心も保ちません。
そんなわたしの反応を、仁さんは完全に楽しんでいる。
大人の余裕ってやつなのかな。なんか悔しい。
わたしばっかり余裕ないなんて…。
「…ずるいなぁ」
「そろそろお茶、冷めちゃいそうです」
ハァッ!!と我に返って勢い良くキッチンの方に振り向けば、まり子さんが困ったように立っていた。