冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
「いま、昼休みなんですよ。先生はお昼ごはん食べに行っちゃいましたしね。…どうも僕は先生からあまり好かれていないみたいで」
ハハッと力なく笑う松永さんにどう返したらいいのか解らず困っていると松永さんは「あ、気にしないでください」と自らフォローを入れた。
「それよりも…、先生へのクリスマスプレゼント選びですか?」
ニコニコと屈託のない笑顔な松永さん。
どんなに人当たりが良くても仕事が出来なかったら何の意味もないのは、なんとなく分かるけど…、仁さんがあそこまで松永さんを拒絶する理由が解らない。
「ま、松永さんこそ、彼女さんへのプレゼントを?」
仁さんとまり子さん以外のひととまともに話すことのないわたしは、普通の会話ですら緊張する。
「フフンッ。正確には「彼女達」ですけどね」
「…は?」
いま、なんて?
「そ、それはつまり…」
この先の言葉を言って良いのやら悪いのやらで迷っているわたしに「だからそんなに気をつかわないで」そう笑った次の瞬間。
「僕、いま3人の女性と付き合ってるんですっ。女子大生とOLと主婦っ!」
「えっ!?しゅ、主婦!?」
「そうですよ?まぁ、今どき不倫なんて珍しくないですしね。それに、主婦の方とはお互いお遊びとして割り切ってますから」
いきなり過ぎるヘビィなカミングアウトに言葉を無くした。
…仁さんは、この事を知っているのだろうか…?
いや、きっと知らない。
知っていたら仕事の出来不出来関係なく自身のマネジャーを辞めさせる筈だ。
仁さんは、曲がったことが嫌い。
未だに作品を読ませてもらった事はないけど、浮気や不倫物は絶対に書かないと以前言っていた。
だから、この話が仁さんの耳に入りでもしたらこの人は即クビだ。
「あ、あの、あなたが三股かけていること、仁さんには絶対に言っちゃダメですからね?わたしも秘密にしておくので」
シーッと人差し指を唇につけて言うと、松永さんはそんなわたしをジッと見つめて
「破壊力はんぱないですね」
ちょっとその愛嬌のある顔を赤らめた。