冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
「…大丈夫か?」
声もわたしと同世代の男性のそれより低く落ち着いている。
ぽやんとその声に聞き惚れていると、いよいよ本気で心配そうにしてきたので
「あ…、大丈夫っ、です…」
なんとか応えるとその人は安心したのか「ハァ」と軽いため息を吐いた。
「こんな裏道、キミのような娘がひとりで来ちゃダメだろ」
「は、はい…。でも、あの、わたし…」
「金が要るのか?」
「えっ?」
ビックリして男性の顔を見ると、
「…すまない。盗み聞きしていたわけではないのだが…」
その人はバツが悪そうにわたしから目を逸らした。
「あっ、いいえ。全然大丈夫です。…お恥ずかしながら昨日ライフラインが全て止められてしまって…。全財産も50円ちょっとで…、だから、その…」
わたしは、ヘラッと笑ってみせた。
お金を借りることさえロクに出来ない自分をもう笑うしかなかったんだ。
「それは大変だな。それに…少し訳ありっぽそうだな」
ハッと目をみはれば、その人は「当たりか」と言わんばかりニヤリと片方だけ口角をあげた。