冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
そこで男性は、とんでもない事を言ってきたのだ。
「…どうかな。ここはひとつ私と結婚するというのは」
「…は?」
け、結婚!?
「キミのご両親には了承を得なくてはいけないが…、私は今すぐに伴侶となる女性が欲しい。そして私にはキミを何不自由なく養える経済力がある。お互い都合の良い話しだとは思わないか?
「ちょっ、ちょっと待ってください…!!」
ぐいぐいくる男性に慌てて待ったをかける。
「初対面なのに、い、いきなり結婚って…!」
「大丈夫。愛は要らない」
「…え」
「形だけの夫婦で構わないんだ。それに、キミは見たところ私よりもだいぶ若そうだからまだまだ恋もしたいだろう。心から好きな人が出来たならいつだって解放してあげよう」
愛は要らない。形だけの夫婦。
表情と声音は優しく穏やかなのに、発する言葉達には温かみが一切感じられなかった。
でも、わたしもまだ飢え死にはしたくないし、
愛なんてものは最初から知らないんだからーー。
「ーーします。結婚」
わたしは強い意思を持って真っ直ぐに男性を見た。
男性は一瞬ハッとしたように見えたけれど、すぐさま涼しげな表情になり、
「それなら事は早く進めた方がいい。今すぐキミのご両親に挨拶をーーー」
「いません」
「え?」
「わたしの両親はわたしが物心つく前に死にました。兄弟もいないし、育ててくれた祖父母も一昨年に立て続けに亡くなりました」
そう話すわたしの眼からはきっと感情の色が消えているだろう。
天涯孤独。
それが今のわたし。