冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。

「それにーーー、わたしも愛なんて要りません」

本音だった。

愛なんて要らない。ビジネス夫婦で構わない。
まだ死にたくないもの。
そこそこの生活が手に入るなら何だってするわよ。

男性は何も言わず右手を伸ばしわたしを起こしてくれた。

「室井仁(むろい じん)だ」

「名波千聖(ななみ ちさと)です」

名前だけの自己紹介を済ますと、室井さんは神妙な顔つきになり、

「…本当にいいのか?」

心配そうに確認してくる。

「構いません」

それをスパッと斬るように答えた。

「わかった。では今日中に婚姻届の提出と結婚指輪の購入とわたしの家への引っ越しを済ますぞ」

「えっ!?」

そんなに用事済ますの!?ってビックリしているわたしを見てふわりと笑った室井さんはわたしの手を引き、歩き出した。

そして、本当にこの日のうちに全て済ましたのだった。

疲れたけど、ひとつだけ。

愛のない結婚なのに、結婚指輪はわたしの好みのデザインやジュエリーを事細かく聞いてくれて、わたしも初めてのことだったので訳がわからなかったけど、店員さんのフォローが手厚く2時間かけて考えがまとまり、指輪は結局フルオーダーになってしまった。

よくよく見ればお店自体がラグジュアリーなところで、指輪の値段は大丈夫だったか室井さんに聞いたが「問題ない」と本当になんて事ない顔していた。

指輪も適当な物を買うか、そもそも買わないんじゃないかって思っていたから
その優しさに少しだけキュンときてしまった。




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