冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
キィと、ドアを開けてガランとした部屋を見渡す。
なんだろう。なんか…。
何かに引っ張られるようにフラフラともう使わなくなってだいぶ経つ小物入れの前まで来た。
「…」
パコっと開けてみると、何も入ってない筈なのに、そこには小さな古い写真が1枚入っていた。
「?」
こんな写真、知らない。
手に取って改めて見てみると、赤ちゃんを抱いて幸せそうに微笑む若い女性が写っていて。
どこか見覚えのあるこの女性…
「これって…、まり子さん?」
今度は裏を返して見てみると、
「ひとし、3ヶ月」と書かれてある。
「ひとし…?」
「千聖」
「ひゃあっ!」
突然名を呼ばれてビクッと身体が反応して思わず叫んでしまった。
「じ、仁さんっ!」
「いつまで待っても降りてこないから心配になった」
「あ、す、すいませんっ」
「手に何を持っているんだ?」
「あ、仁さんも見てください。この写真なんですけど…」
側に来た仁さんに写真を手渡す。
「…これ、まり子さんか?」
「やっぱり、まり子さんですよね。裏も見てください」
わたしの言葉に素直に従って裏もみてくれた仁さんの眉間に皺を寄せる。
「ひとし…?」
「これって…、まり子さんのお子さんとかです?」
「いや、まり子さんに子供はいない筈だが…」
「でも…」
「…千聖が抱いている疑問は解る。これも親に聞いてみよう。用意は…出来ているようだな。行くぞ」
「はいっ!」
写真を携(たずさ)えて、わたし達はご両親の元へと向かった。