冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
ーー
ーーーー
「…」
ご両親にいつもの明るさと笑顔はなく、向かい合って座っているわたし達をただジッと見据えている。
「オヤジ、おふくろ。電話でも言ったが、まり子さんが居なくなった」
「…そうか」
「俺と千聖宛てにただひと言、どうかいつまでも仲良く。とだけ書かれた手紙と退職願いだけ置いてな。…あと、今朝こんな写真も見つけた」
テーブルにスッとあの写真を置くと、お義父さんの眉がピクリと動く。
「…そうか」
「何か知っているなら教えてください…!お義父さん、お義母さんっ」
「千聖ちゃん…」
「俺からも頼む。教えてくれ」
わたしの肩をさすりながら仁さんはご両親に頭を下げ、わたしもそれにならって頭を下げた。
「仁っ、千聖ちゃん、頭を上げて。ねっ?」
「そうだ。ふたりとも頭を上げなさい」
それでも頭を上げないわたし達を見て大きなため息をひとつ吐いたお義父さんは、観念したように、
「わかった。…全てを話そう」
そう、言ってくれた。
「ーー仁。お前が養子だってことは、知っているな?」
いきなり内核を攻められ、わたしはギョッとしてしまったけれど、仁さんは至って冷静で、
「ああ。とっくに知っている」
表情を崩す事なく、淡々と答える。
「それなら変に誤魔化さずに言おう。お前の本当の母親は、まり子さんだ」
その言葉を聞いて心に何かわからないものがストンと落ちた。
腑に落ちた感覚と言うべきか。
それは仁さんも同じだったようで表情は一切崩れていない。