きみは溶けて、ここにいて【完】




 なんで写真を撮ったのか。

影君に見せたかったからだ。だけど、説明できるわけがないし、したくないと思っていた。

「なんとなく、だよ」と誤魔化すように笑ったら、吉岡さんが悪戯っぽい表情で口角をあげた。



「彼氏に送るんじゃないの?」

「うっそ、保志さん、彼氏いるんだ?」

「え、待って、鮫島?」

「いや、違うけど。俺の彼女、別のクラス」

「えー、保志さんの彼氏、誰?」



 どうしよう。どうすればいいんだろう。とりあえず、大げさに首を横に振って、「彼氏、じゃないよ」と言った。

だけど、浜本さんが、かぶせるように「じゃあ、何?」とまた聞いてくるから、困ってしまう。




 影君のことは絶対に言えない。

きっと、後から考えれば、それっぽい嘘なんていくらでも思いついただろうに、この時の私は焦ってしまって、首を横に振るしかなかった。



「……いえ、ないんだ」

「えー、そこは、教えてよ」

「教えて、保志さん」



 ケラケラと笑う声に、もしも傷つけてしまったらどうしよう、と、またいつもの思考に辿り着く。

どうしたら、どうしたら、と頭の中がこんがらがってくる。



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