きみは溶けて、ここにいて【完】



 教えて、と言われたら、その通りにしなければ、相手が傷つく、と思う。『地獄だ』と言う大切だった人の声が頭でまた再生される。

どうしたら、どうしたら。

解けていく思考の果てで、不意に、影君が頷いた気がした。

それで、するりと言葉が口から飛び出す。



「私、言いたくない」


 自分の意思を、ちゃんと言葉にしたのはいつぶりだろうか。


保志文子は断らない。


ーーーううん、今、私、断った。




 すぐに、後悔の気持ちが生まれる。


ドキドキしながら、三人の反応を窺う。


鮫島君は、あんまり興味がないようでぱくぱくとカレーを食べていた。

ホッとしながら、浜本さんと吉岡さんの方へ視線を向けると、二人は驚いたような表情を浮かべている。


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