きみは溶けて、ここにいて【完】




やはり、気に障ったのだろうか。

ごめんね、を言う準備を始めていたら、「初めて聞いた」と、浜本さんが呟いた。



「保志さんが、ノーって言った」

「ね、私も今吃驚している。誰かのお願い断るのはじめて聞いた」



 二人はただ驚いているだけみたいで、怒っているわけではないんだと思ったら、急に力が抜ける。

なんだか、ほんの少し、泣きたくなった。きっと、ホッとしたからだ。


「そりゃ、断りたいこともあるんじゃねーの」と、興味がなさそうにしていたはずの鮫島君が、横から言葉を発する。

本当に、そうだ。だけど、いつも断れないんだ。


 分かってほしいと思っていないのに、分かってくれている人がいるのだと感じて、なぜか救われた気がした。

唾をのみこんで、口を開く。
上目で、浜本さんと吉岡さんを見つめた。


「……本当は、嫌なんだ」


 調子に乗っている。分かっている。

だけど、もう、ここまできたら、言ってしまってもいいような気がした。傷つけないように、傷つけられないように。



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