きみは溶けて、ここにいて【完】
私もごめんね、と思いながらも言わなかった。
何が? って聞かれたら、答えられない気がしたから。
それは、中身のない謝罪なんだ。
この前、森田君に気づかされたことだ。
今は、したくてもするべきではないと思った。
「ほれ、謝罪の肉です」
浜本さんがそう言って、自分のカレーから牛肉をスプーンですくって私のカレーに落とす。
吉岡さんは、「ほれ、私は嫌いだけど保志さんは好きそうなピーマンです」と言って、ピーマンを大量にすくって私のカレーにいれた。
どう反応すればいいのか分からなかったけれど、戸惑いながらも「ありがとう」と二人に言う。
こんなやり取り、久美ちゃんともしたことがなかった。
こころがくすぐられているような気分になって、もう一度、「ありがとう」と言ってしまう。
「女子って変。意味わかんないな」
鮫島君が、奇妙なものを見るような目で私たちを見ながらそう言った。