きみは溶けて、ここにいて【完】
だけど、そうこうしているうちに、少し離れたところで、「あれ、森田は?」という男の子の声が聞こえて、ハッとする。
森田君は、―――影君は、もうすでに宿舎の裏に向かっているのかもしれなかった。
待たせることはしたくない。
深呼吸は数回繰り返した後、息を潜めて、広場を後にする。
誰かに声をかけられたら、『トイレです』と努めて平然と答える。
そんなイメージトレーニングばかりしながら、早足で宿舎の方へと向かった。
広場から離れると、騒がしさは止み、ひっそりとした夜だけが残る。
誰にも見つからないことだけを願いながら、忍び足で宿舎の裏へとまわる。ドキドキしていた。
キャンプファイヤーの時間に抜け出して影君と会うことがばれてしまうことの恐れと、これから影君と会えるということに対してのドキドキ感。
相反するものが、同時にこころを揺すっている。