きみは溶けて、ここにいて【完】
宿舎の裏に辿り着く。
壁に背を預けて、恐る恐る辺りを見渡す。
人の気配はない。
まだ、影君は来ていないみたいだった。
この場所にて視界の助けになるのは、宿舎の窓から漏れ出る明かりと、仄かな月の光だけだ。
ここで、話すつもりなのだろうか。
影君は、本当に。
「……来る、のかな、」
影君が、約束を破るような人ではないと分かっている。
だけど、さっきまで森田君である姿を見ていたから、なんだか、ここにきて不安が膨らんできた。
しゃがんでしまいという気持ちになってくる。
それでも、弱気ではいたくなくて、気を紛らわすために、宿舎の裏の柵に肘をついて、暗い夜の山を見下ろしていた。