きみは溶けて、ここにいて【完】
宿舎の裏、コンクリートの坂を下りて、そのまま細い道へ入る。
あたり一体、太い樹が不規則に並んでいた。
虫が鳴いている。
森は、夜も眠らないんだ、と走りながら思う。
どこに行くつもりなの。見つかったらどうするつもりなの。
怒られてしまうし、怒られたら、目立ってしまう。それは避けたかった。
それに、影君、こんなこと、きっと、森田君に迷惑をかけることになると思う。
それで、いいのだろうか。
心配だ。
だけど、掴まれた手を振りほどくことなんて到底私にはできなくて、ほんの少し、臆病な気持ちの中に、手首に触れる彼の体温を手放したくはない、という奇妙な意思が働いてしまっていて、ただ、引っ張られたまま、走るしかなかった。
影君が、こんなに大胆な行動をとるなんて思いもしなかった。ありふれた言葉さえ、なにも出てこない。
ただ、夜の風を切って、私たちは、駆けている。
月の明かりが木々の間から漏れ出て、まだら模様を作るように地面を照らしていた。
水の音がどこからか聞こえて、湿ったような土の匂いが強くなっていた。