きみは溶けて、ここにいて【完】




ずっと、月明りの中で、彼の背中ばかりを見つめていた。そんな中で、鼓膜を揺する水の音が気になってきて、不意に、視線をずらして辺りを見渡す。


その瞬間、視界の隅で、優しい光が点滅したから、思わず、わ、と声を漏らしてしまった。



 その光の点滅の方へ、知らぬ間に足が進んでいた。



 彼を追いかけることに夢中で、
今の今まで気づかなかったのだ。



「っ、……、」



 一つだけじゃない。


幾つもの光が光っては消えていく。薄緑色に白色を混ぜたような、星よりも生々しい光。



ーーー蛍だ。


 立ち止まったまま、しばらく見惚れてしまっていた。



気が付いたときには、隣に彼が立っていた。

そっと見上げると、暗闇の中で、確かに目が合う。



 瞳に、光の点滅を、今、二人で、生かしているのかもしれなかった。


 水の優しいせせらぎが、この場所の神秘を助長させているような気がした。


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