きみは溶けて、ここにいて【完】
誰かの言葉を証明するために生きなくていいという気持ちを、伝えたくて、だけど、それは言わないことにした。
これ以上は、もう、言葉にすることが怖かったから。
私たちは、しばらく黙ったままでいた。
せせらぎの音に目を瞑ってしまいたくなる。
そんな中、「ねえ」と、森田君の声が束の間の沈黙を破った。
「保志さん、」
彼は、穏やかな瞬きを落として、目を伏せた。
睫毛が、揺れるのを見て、それが分かるくらい、今、彼と近くにいるのだと、今更気づく。
そして、彼は、また、ゆっくりと唇を震わせた。
「なんか、今、俺、影の気持ちが分かったかもしれない」
影君の気持ちとは、なに。
そう尋ねる前に、森田君が立ちあがったから、言葉にするタイミングを失ってしまう。
「保志さん、そろそろ、戻ろうか」
森田君の声に頷き、私たちは来た道を戻った。
私は、森田君の少し後ろをついていった。
相変わらず姿勢のいい堂々とした後ろ姿だ。
だけど、もう、それが、全てではないのだと私は、知ってしまった。