きみは溶けて、ここにいて【完】
林間学校から数日経った朝、私の下駄箱に影君からの手紙が入っていた。
林間学校に行く前の私なら、そのまま急いでトイレに向かって、封筒を開いたと思う。
だけど、どうにも、森の中で、森田君が話してくれたことがちらついて、手紙を見ることが怖くなってしまって。ようやく中を確認できたのは、家に帰ってからだった。
カレーは美味しかった。キャンプファイヤーのときにあなたと森田君のことを聞いたんだ。私も、すごく、本当は会いたかった。
綺麗な筆跡を目で追っていたら、いっぱい気持ちが溢れてくる。
どうやら、森田君は影君と記憶を共有していないみたいだった。
共有しないこともできると言っていたし、森田君があえて共有しなかったかもしれない。
それとも、共有できないほどに、影君の存在は薄くなっているのだろうか。
ふたりの仕組みなんて、何にも分からないのに、不安は膨らんでいく一方で、引き出しの中に今までもらったたくさんの手紙が入っているのを見て、胸が苦しくなった。
手紙の返事には、森田君と二人で過ごした夜のことを書かないことにした。
私が書くべきではないのかもしれないと思ったから。
林間学校のことについては、曖昧に触れるだけにした。
それから、影君が勇気を持ったという詩を図書館で調べて読んで、その代わりに私は、中原中也の「一つのメルヘン」を引用して手紙の最後に書いた。
秋を思いたかったんだ。
夏を通り越して、ずっと。影君とこれからも文通をしたいと、思ってしまっている。