きみは溶けて、ここにいて【完】
朝、教室に入った時から、なにか、いつもより視線を感じると思っていた。
授業中も、休み時間も。外見におかしなところがあるのかもしれないと思って、トイレの鏡で確認してみたけれど、特に気になるようなところはなくて、そうなると何かしてしまったのではないかと不安になってくる。
特に感じるのは、女の子たちの視線だ。
恐かった。
人の目は、私にとって凶器と同じようなもので、自意識を思い込みではとどまらせてくれないもの。
三限目が終わるころには、自分の席で俯いているしかなくなった。
何をしてしまったのか。
思いつくことは、何もない。
無自覚であることが、一番恐ろしかった。
昼休み、久美ちゃんが私の席にお弁当をもって来てくれる。
久美ちゃんに、何かしてしまったわけではないのだということだけ分かり、束の間安堵したけれど、お弁当を食べ始めてからも、やはり、いつもは感じない視線がずっと自分に向いているような気がして、こころはひと時も休まることがなかった。
本当に、何をしてしまったのか。
ようやく、その理由が分かったのは、五限目の休み時間のことだった。
次の授業の準備をして、また自分の席で俯いていたら、「保志さん」と名前を呼ばれる。
つん、と、少し尖ったような声だった。
恐る恐る顔をあげると、そこには、島本さんと、その少し後ろに、その友達の金山さんと南さんが立っていた。
三人とも、影響力があって、
クラスの中心にいるような女の子たちだ。