きみは溶けて、ここにいて【完】
「ありがとう、って、言いたかった。本当は、それだけだったのに。陽にはじめて頼みごとをしてしまった。身体の中で意思を伝えた。だから、違うんだ。陽は、イエスマン、だと思って、文子さんに僕のことを、頼んだんじゃないんだ。ごめん。それで、僕は、だんだんと欲張りになって、」
ぼやけた視界の先で、ゆっくりと影君が目を開いた。瞳は、空の暗闇を映していた。
ふう、と息を吸い込む音が聞こえる。
影君が、顔をこちらに向ける。
ふ、と力を抜くように、笑う。
諦めと悲しみと喜びが共存しているような笑みだ。
「文子さん」
「……は、い、」
「僕は、あなたが、好き、です。たぶん、もう、ずっと、好きだったのだと思う」
「………っ」
「だから、苦しまないで、ほしい」
ああ、そうか。
それ、だ、と分かってしまう。
怖くて、恐ろしい。似ている、ということだけでは、説明のつかないもの。会いたい、の理由。心の距離を、恐れながらも近づけてしまったこと。
それらを表現するには、その言葉しか、なかったんだ。