きみは溶けて、ここにいて【完】
気を抜くと、影君のことばかり考えている。
悪い想像ばかりしてしまう。
一緒にいてくれている久美ちゃんにも申し訳ないと思うのに、それでも、自分の思考が止められない。
「あ、飛行機雲」
久美ちゃんの声に、顔をあげて、空を見渡す。
確かに、グラウンドの向こうの空に、うっすらと白い直線が一本のびていた。飛行機の通った後にしかできない。
現れたときには、もうその地点に飛行機はない。星も光っている時にはもうないのかもしれない。
昼も夜も、空にある魅力のほとんどは、過去だ。
「文子ちゃん」
久美ちゃんが、飛行機雲のほうを見たまま、少し照れくさそうに口角をあげた。
夏の風に、久美ちゃんのツインテールがふんわりと揺れる。
「また、好きな人ができた」
「え、」
「隣のクラスの人。最近ね、バス停でよく話すんだ。鮫島君の呪縛から、完全に解き放たれました」
そう言って、ちら、と横目で私を見て、久美ちゃんが悪戯っぽい表情を浮かべた。
「呪縛っていうのはあれだけど、まあ、新しい恋だよ」と付け足して、笑う。照れ隠しをしているみたいだった。