きみは溶けて、ここにいて【完】
だけど、言っていた、から。
“そんな簡単に、文子さんのことを、誰も嫌いはになれない。”
あの夜に逃げ出してしまったことをすごく後悔しているのに、影君にもらった言葉だけは、温かくて、そのままの瑞々しさを保ったままなんだ。
「文子ちゃんが、私のツインテール、めちゃくちゃ丁寧に描いてくれたから」
「え、」
「一年生の美術の授業の最初に、似顔絵描き合うみたいなことしたじゃん。たまたま、私と文子ちゃんがペアになったでしょ。私は、適当に文子ちゃんのこと描いちゃったけど。文子ちゃん、すごい真剣でさ。なに? と思って、のぞいたら、ツインテールだけ、すごい綺麗に描いてくれてたんだよね」
「それ、で?」
まさか、そんな理由でここまで仲良くしてくれていると言うのだろうか。
尋ねたら、久美ちゃんは、平然と頷いて、「だって、自慢のツインテールなんだもん」と言う。
なんだか、拍子抜けして、気が付いたら、笑ってしまっていた。
なんだ。そんなことなんだ。
そういう風に、誰かと仲良くしようと思う人もいるんだ。
驚きつつ、久美ちゃんらしいとも思った。
久美ちゃんも笑いだす。ツインテールが、優しく揺れて、なんだか爽やかな甘い匂いがした。