きみは溶けて、ここにいて【完】
「そんなもんだよ、きっと」
「……そうなのかも、しれないね」
「些細なことかもしれないけどさ、嬉しかったし。仲良くなれてよかったもん」
くるん、と指にツインテールの毛先を巻き付けて、久美ちゃんは言う。
些細なこと。
そいうものの積み重ねで、好きになったり、嫌いになったりするのかもしれない。
久美ちゃんと美術の授業で似顔絵のペアにならなかったら、こうしてベランダに出て飛行機雲を一緒に見ることもなかったんだと思ったら、不思議な気持ちになった。
「ありがとう」
「いーえ」
「……好きな人、よかったね。私も、嬉しい」
鮫島君はきっと相変わらず恋人と仲良くしているだろうし、違う人を好きになって久美ちゃんが幸せそうにしてくれるなら、それが一番だと思った。
久美ちゃんは、また、飛行機雲のほうに視線を戻して、「よかったよ」と言った。
「鮫島君に、告白してよかったって、やっと思えたよ。言えてよかった。彼女がいるってわかっていても、もしかしたら、いつかは告白してたかもしれない。振られるって分かっていても、伝えないと消化できないものとか、あるじゃん」
「そう、かな」
「うん。そうだと思う。とにかく、前に進めて、よかった」
「うん」
久美ちゃんがそう言うなら、それでいい。