きみは溶けて、ここにいて【完】
「……久美ちゃん」
「うん? なに?」
「……好きな人の話、してもいい?」
久美ちゃんは驚いたように目を丸くして、「うん、うん」と何度も頷いた。
熱いベランダの淵に指先だけ触れながら、目を落とす。
どうしたら、言葉にしても砕けないままにしておけるだろう。そんなことを考えながら、悩みの上辺だけを大切にすくう。
「……優しくて、少し、自分と似ていて、知り合って少ししか経ってないのに、いつの間にか好きになっていた人がいたの」
「うん」
「だけど、その人に、もう会えるかどうか、分からないんだ。逃げちゃったんだ、私。……だけど、好きなんだ。……どこのだれかは言えないんだけど、ごめんね」
「ほう。秘密主義。文子ちゃんらしいからいいけど……それって、0パーセントなの?」
「へ、」
「会えるかどうかわからないって、0パーセント?」
「分からない」
正直に答える。
本当に、分からないんだ。
だけど、怖くて、森田君に確かめてさえいない。
やっぱり、私は逃げている。
首を傾げたら、久美ちゃんが、「分からないって、どういうこと?」と聞いてきた。それにも首を横に振ることしかできない。