きみは溶けて、ここにいて【完】





 会いたいと思ったら、その勇気を手放してしまう前に伝える。

それは、昔、影君が私にしてくれたことでもあった。今度は私が、返したい、と思った。


 飛行機雲は、真昼に浮かぶ流れ星だということにする。じっと見つめて、勝手に願う。


まだ、影君がこの世界に存在していますように。ふ、と空気を抜くように笑ってほしい。

好きなのだ、と、一度だけ、言ってみたかった。






森田 影様    


 返事を待たずに、お手紙を書いてしまいます。ごめんなさい。影君が会ってくれた夜、逃げ出してしまい、ごめんなさい。ただ、嬉しかったのです。だけど、同じくらい怖かったのです。

影君、また会えないのでしょうか。無理を言ってしまっていたら、本当にごめんなさい。影君に会いたくて。また、一度だけでも、会ってくれないでしょうか。

来週の土曜、前に待ち合せた隣街の駅で待っています。午前十時から、待っています。

強引な約束になってしまっていたらごめんなさい。わざと、ボールペンで書いてしまっています。

あなたのやさしさに、きっと私、甘えてしまっていますね。初めて手紙を書いたときの私には考えられないことです。本当に感謝しています。

言いたいことも、言いたくないこともあって、ただ、会いたいという気持ちだけは、何の偽りもなく、本当なのです。影君、待っています。 

保志 文子




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