きみは溶けて、ここにいて【完】




「……バスで、来たんだ。手紙、嬉しかった」

「都合もきかずに、ごめんなさい」

「………いや、いいんだ」

「入れ替わるの、きっと、難しかった、よね」

「……ううん。文子さんは、気にしなくてもいいんだ」

「この前の夜も、逃げてしまって、ごめんなさい」



 頭を下げる。

そうしたら、影君がそっと顔を覗き込んできた。


湖みたいな瞳。

優しく、「文子さんは悪くない。僕が、悪いんだよ」と言われて、また目の奥に新しい熱が生まれる。


だけど、泣きたくなかった。

影君に、笑ってほしいんだ。
だから、私も笑っていなければならないと思った。




「影君」

「……う、ん?」

「今日は、私、考えてきたんだ。喜んでくれるか分からないけど、もしも影君が来てくれたら、どういう風に過ごすか、いっぱい考えた。もしも、嫌だったら、ごめんね。だけど、影君、来てくれたから。今日は、私に、任せてくれないかな?」



 ドキドキしながらそう言ったら、影君は、何度か瞬きをした後、目じりにかすかに皺を寄せた。

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