きみは溶けて、ここにいて【完】




途中で、そっと隣を確認したら、影君は薄暗い中で真剣にスクリーンを見つめていて、いつもは猫背なのになんだか少しだけ姿勢がよかった。


また、一緒に、こうやって映画が見たい。

私は、スクリーンの中、シェイクスピアの生涯が閉じる前に、そんな気持ちでいっぱいになってしまった。



 映画を見た後、ぽつぽつ、と鳴る雨音の間で、少しだけ私と影君は感想を交換して、それから、初めて会った時と同じお蕎麦屋さんに行った。


私はかけ蕎麦を、影君はおろし蕎麦を注文した。


 向かい合って、お蕎麦を啜る。


「美味しい」と私に言うでもなく、影君が呟く。

そうだね、私は影君と食べているから、お蕎麦が美味しいんだ。そう、心の中で返事をした。




 まだ、躊躇ってしまっている。



 会えただけで十分で、だけど、時間というものは流れていき、私たちは留まれず、一秒前を手にすることはできない。

あの夜のように、何もしないで、後悔さえできないで今日を終えたくはなかった。



 お蕎麦を食べ終えて、私たちはまた雨の中を歩いた。今日の最終目的地へと、向かっている。

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